episode 9 ページ10
「………本当にいいんだね?」
首領が、数日前と同じ質問をしてくる。
わたしは迷う事なく頷き、そして微笑んだ。
「首領、今までお世話になりました」
「櫻子君、もし君の姉が来たら、ポートマフィアは侵入者として排除するが………構わないかね?」
唇を噛む。
本当は黙って消えたかった。できるだけ大事にしたくなかった。わたしのせいで、ポートマフィアを混乱に陥れたりしたくなかった。
でも___それでも、わたしがここに来たのは、首領にある約束をしてもらう為だ。
「その件で、お願いがあります」
床に膝をつく。額も床につけて、わたしは土下座した。
無茶なお願いをするのだから、これくらい当たり前だと思った。
「もし、姉様がポートマフィアに来ても………殺さないで、ください。姉様は倖せなんです。それを、壊したら駄目なんです」
姉様には、最期まで笑っていて欲しい。
わたしの為に死ぬなんて、それだけは駄目なんだ。
「無茶なお願いだと判っています。それでも、どうかお願いします」
「………善処しよう」
首領が呟くように云ったのを確認して、わたしは首領室を後にした。
「おい」
呼びかけられて、特に何も考えずに振り返る。
そこには、しかめっ面をした中原幹部が立っていた。
「手前、ポートマフィアを出て行くってどう云う事だ」
「そのままの意味です」
中原幹部の横を通り過ぎようとする。案の定、肩を摑まれて止まった。
中原幹部の顔を見る。
不機嫌そうに眉を寄せた中原幹部が、ぶっきらぼうに云い放った。
「笑え」
目を見開く。何を云っているのか理解できなくて、喉が弱々しい音を立てた。
「相変わらず、中原幹部は無茶なお願いをしますね」
泣き笑いのような顔で、からかうような声で云った。
「さようなら、中原幹部」
今度こそ、中原幹部の横を通り過ぎる。
もう、制止の手は伸びてこなかった。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時