episode 3 ページ4
『姉様』
夢の中に出てくる妹は、いつも真っ暗な瞳をしている。
私の首に細い手をかけて、絞めてくるのだ。
『あ………やめ、て………』
『どうして姉様だけ倖せに暮らしてるの?』
妹はそう問いかけて、でも答えは望んでいないようだった。
顔にだけ靄がかかっていて、はっきりとは見えない。
『ねえ、姉様、貴女を倖せにしてくれているお義父さんやお義母さん、それに義弟も、全部わたしにくださいよ。姉様が今まで笑っていた分の時間も、全部全部、わたしにください』
まるで機械が喋っているように、感情が感じられない声。
目の前が霞んできた時、遠くから声が聞こえてきた。
「………起きろ。義姉ちゃん、起きろ!」
躰を揺すられて、重い瞼を開く。
眼前には、心配そうな義弟の顔。
「義姉ちゃん、大丈夫か?魘されてたぞ」
「あ………?櫻子は………?」
「櫻子?」
義弟が眉をひそめる。嗚呼、と思った。
櫻子。
______飯島櫻子。
私の、妹の名前。
私は義弟を見て、少しだけ微笑んだ。
「ごめんね、康成。起こしちゃった?」
「否、平気。トイレ行こうとしてたんだ」
私の、義弟の名前。
櫻子は、『どうして姉様だけ倖せに暮らしてるの?』と云っていた。
………そうなのかな。
櫻子にとっては、私も、太宰治と大差ない?
寧ろ、太宰治と一緒?
ねえ櫻子、貴女は今、どこにいるの?
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時