episode 13 ページ14
「姉、様………」
自分の声が、優しく鼓膜を揺らす。
姉様は膝に手をついて、肩で息をしていた。
「櫻子、櫻子、櫻子」
何度も何度も、わたしの名前を呼ぶ。大切な宝物のように。
「あ」
声が漏れた。
「兄、さん」
大切だったよ。姉様も兄さんも、中原幹部も首領だって、わたしを笑顔にさせてくれた人はみんな、大好きだった。
「櫻子、帰ろう」
姉様がわたしの手を握る。
「家に、帰ろう」
______家?
姉様ったら、判ってないなぁ。
「姉様、わたしには帰る家なんてないよ」
微笑む。特に意味なんてなかったけど、姉様の顔が悲痛に歪んだ。
ポートマフィア。それが今までのわたしの家だったんだもの。
「だからね、姉様」
悲しげに揺れる姉様の瞳を見つめ返して、云った。
「わたしの事はもう、忘れて」
心臓が軋んだ。喉が悲鳴をあげている。無視して、でもできなくて。変だなぁ、涙が滲んできた。
「倖せになってね」
姉様の横を通り過ぎる。「櫻子」と弱々しい声に呼ばれたけれど、振り返らなかった。
さようなら、姉様。今までありがとう。
大好き。
空を見上げると、灰色の雲の隙間から太陽が顔を出す。
それはまるでスポットライトのように、わたしと姉様を照らしていた。
暖かい、と思った。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時