23. ページ15
.
「病院であの子の産声を聞いた時…、なぜだか、Aちゃんのピアノの音を思い出しました」
『……え、？』
「……今でも、 ” ピアノと仲良くやっていますか？ ”」
若い頃からどんな人にでも、たとえ幼い子たちにも、先生は昔から丁寧な敬語口調で話す。
何度やっても上手く弾けなくて、そのたびピアノに八つ当たりする私に、先生がよく言っていた口癖。
ここでもまたひとつ、時間が止まっているのだと思った。
『………いえ、…ちょっと、喧嘩中です』
「そうでした、か…」
先生の記憶の中の私は今でも、しっかりとピアノと向き合っている。
ピアノとも、自分とも……正直に向き合う、そう決めたのに。
やっぱりまだ少しだけ、…こわい。
「僕は、Aちゃんの紡ぐあの音が好きですよ」
『……、』
「Aちゃんはどうですか？……もう、嫌いになってしまいましたか？」
おだやかな笑顔で、どうして先生はそんなに残酷なことを聞くんだろう。
嫌いになれたら…、心の底から憎んで、消し去ることができたなら……
こんなに、苦しむこともないのに。
ずっと好きだったピアノを、嫌いになるなんて……私には、できるはずがない。
『先生、今日は突然すみませんでした。……でも、ありがとうございます』
「いいえ、僕は何もしてませんよ。またいつでも来てくださいね」
『はい、…また』
「おねえさん、じゃあねっ！」
『ふふ、美雨ちゃんばいばい。またね』
玄関先で美雨ちゃんを抱き上げたまま、先生が手を振る。
そしてドアを開けた瞬間、先生が私を呼んだ。
「……Aちゃん、」
『……？』
「もし自分のために弾くのが辛いなら、誰かのために弾いてみてください」
そうするときっと、力が湧くはずです。
そんなふうに穏やかに笑う先生を、私は改めて尊敬していると心から深く思った。
誰かのために…、か。
”……ごめん、心配かけて ”
秋ちゃんは何を、ひとりで守ろうとしてるんだろう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1198人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
I(プロフ) - みどくろさん» みどくろさん、ありがとうございます！！ お互いがんばりましょうっ(*^^*) (2016年9月6日 18時) (
レス) id: f5b592d975 (このIDを非表示/違反報告)
みどくろ - Iさん» 続編おめでとうございます！勉強がんばりますね♪ (2016年9月6日 16時) (レス) id: d4bef834e4 (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - みどくろさん» 無理なさらずにお勉強がんばってくださいね^ ^ お時間あるときにまた遊びにきてください♪ (2016年9月5日 22時) (レス) id: f5b592d975 (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - みどくろさん» いえいえ、デシャヴってやつかもしれないです…（笑）でもこうして、みどくろさんが初めてコメントしてくださったことが本当に嬉しいです！！ ぁ、その手がありましたか！お勉強忙しそうですね…そういえばそのドラマに賢人くん出てましたね！ (2016年9月5日 22時) (レス) id: f5b592d975 (このIDを非表示/違反報告)
みどくろ - Iさん» あらら。実はコメしてたり...したかもです。。どっちにしろ名前覚えているなんですごい！流石！私の姉がYouTubeにうpされた好きことの動画見ているんですけど、なかなか時間無くて...(￣ー￣)今は勉強の息抜きに35歳の高校生を見てます。時間があったら見てみますね！ (2016年9月5日 21時) (レス) id: d4bef834e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：I
| 作成日時：2016年8月16日 17時
