06. ページ30
.
お店に入ると、私、秋ちゃん、美咲ちゃん、楓さんの順でカウンター席に座った。
二人の行き慣れていたお店なのか、さっきから店内を見渡しながら店員さんと仲が良さそうに話している。
気になるのは、二人の間に美咲ちゃんが座っていること。
入った順に座ったとはいえ、知らない思い出話を目の前でされる美咲ちゃんの気持ちを考えれば、…誰だって悲しい。
「楓ちゃん、いつもの ” アレ ” お願いできないかな？」
「いいですよ」
『……秋ちゃん、いつもの ” アレ ” って？』
「ふふ、見てて。楓、昔ここでバイトしててよく弾いてたんだ」
オーナーの方に頼まれ、店内にあるグランドピアノを弾き始めた楓さん。
そんな楓さんのことを話す秋ちゃんは、どこか誇らしげだった。
素敵なバースデーソングを演奏した楓さんが、颯爽と席に戻ってくる。
「Aちゃんも一曲、弾いてみない？」
『…え？』
「おれも久しぶりに聴きたいなぁ、Aのピアノ」
「Aちゃんピアノ弾けるのっ！？」
「あれ？ 言ってなかった？ Aはピアニストの卵なんだよ」
「き、聞いてない…です」
「ちなみに明日の結婚式でも弾いてもらおうって、楓と話してたんだけど…」
秋ちゃんの発言に、美咲ちゃんが驚くのも無理はないと思った。
こっちに来てから、私は一度もピアノを弾いていない。
もっと正確に言えば、もう１ヶ月は弾いていなかった。
『ごめんなさい……私、もうやめたんです』
「「 …え、 」」
『だから……弾けないです、明日。本当にごめんなさい…』
昨日の打ち合わせの後、楓さんから個人的にお話をいただいていた。
その場ですぐに断れなかったのは、私のかすかに残ったプライドが邪魔をしたから。
『……秋ちゃんごめん。明日の準備のお手伝いしたいから、やっぱり先に帰るね』
「Aちゃん…！」
「…櫻井。おれちょっと行ってくるね」
追いかけようとした美咲を笑顔でとめ、千秋はAの後を追いかけて店を出て行った。
そんな姿を美咲は心配そうに見つめ、一方で、楓は悔しさを滲ませるような表情で見つめていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1613人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
I(プロフ) - レイさん» レイさん、コメントありがとうございます！！ …夏が人に恋をさせる らしいですからね、日村信之(36)さんによると（笑）気にいってくださってとても嬉しいです。これからもお楽しみください(*^^*) (2016年8月3日 10時) (
レス) id: 1e35e1a13a (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 夏の恋って憧れますよね！素敵な作品と出会えて感謝です。\(*´∀`*)/ (2016年8月3日 7時) (レス) id: e7a4dccf18 (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - KIKIさん» KIKIさん！コメントありがとうございます(*^^*) …そうなんです、これを書き始めたときにただの夏のラブストーリーではなく夏特有の切なさも織り交ぜたいと思ったので、切なさが伝わっていてとても嬉しいです☆ (2016年7月28日 13時) (レス) id: 1e35e1a13a (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - ＊いちご＊さん» いちごさん、コメントありがとうございます^_^ きゅんきゅんニヤニヤしていただけて私のほうこそニヤニヤしております（笑）冬真の本気なのか冗談なのかわからないアプローチが書いててとても楽しいです♪ (2016年7月28日 13時) (レス) id: 1e35e1a13a (このIDを非表示/違反報告)
KIKI - 初コメスミマセン。すっごく切ないです！でも、とっても面白いです (2016年7月28日 9時) (レス) id: 9086491411 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：I
| 作成日時：2016年7月13日 2時
