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「ほーらとおるくーん!!おばさんですよー!」
「待ってナタリーは私の親戚じゃないだろ」
「いいじゃない、そのくらい…」
「まあいいけど」
出産して二週間が経った。
出産した後出産届を出そうとするも、本当にここで産んだのか?と怪訝な目で見られたのでナタリーが出産を立ち会ったと言う話をして、本人に聞くと無事届を出せた。
ぶん殴りたい気持ちを抑える私も随分と丸くなったのだろうな。
と思い笑ってしまう。
「とおるくん可愛いわねぇ」
「ちょっと、デレデレじゃないか。
私の子だぞ、早く返せよ」
「えー!もうちょっとー」
取り敢えずこれだけは言わせてもらう。
わたしのとおる可愛すぎる。
これが親バカというやつか。
この子を孕んでから人生勉強の連続だ。
ちら、と外を見た。
ロッジのような子の家の外はやはり銀世界で美しい。
近くを流れる川の向こう岸に、黒い影が見えた。
モスグリーンの瞳が見えるようで、肩が震えた。
「ひ、」
ギラギラと光るその目はまるで獲物を今か今かと待ち構える狼のようだ。
過去の恐怖が沸き起こる。
「ひ、い、うぁ…あ、ああっ」
「!?どうしたんだ?A!」
ガタガタと震え、体が強張る。
私の瞳からポロポロと涙が溢れてきた。
助けて、それしか考えられない。
しかも助けて欲しいのはやはり降谷。
「た、すけて…ふる、や」
ガタンと椅子から滑り落ちる。
ナタリーは焦ったようにこちらに駆け寄るも重い瞼は簡単に閉じてしまった。
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Aが倒れた。
外を見ると大きな狼がいた。
真っ黒で、その体に映える美しいグリーンの瞳。
ドアを開けて「C' mon」というとクゥーンと声を鳴らし近寄ってきた。
随分と人に慣れているらしい。
そんなこんなしていると、家の電話が鳴った。
リリリリリン
「…」
『あ、えっと…
この男か。
すうっとこの部屋の温度が十度ほど下がった気がする。
いや、確実に下がった。
「日本語で結構です。
降谷さん、話はAから聞いています」
『…そこに、早見がいるんですか?
変わってください』
イラッとした。
なんなんだこの男は。あの子は苦しんでいたのに、何故だ。
「いやです」
『え?何故?」
「何でもいいでしょう。
もうかけてこないでください」
『ちょ、ちょっと待って』
「かけてこないで!!!」
ガチャンと乱暴に電話を切る。
静まり返った部屋で私は1人狼を撫でた。
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作者名:硫酸Ryu☆ | 作成日時:2018年4月11日 18時