8 ページ8
その日は、いつも通り雪の降る日だった。
「？Aどうしたの？」
「ひ、うぁ…！」
銀世界に映える黒のポルシェ。
雪に照らされ滑らかな長髪がキラキラと光る。
黒い帽子に黒いコートはその男の怪しさをより引き立てる。
『ジン』
それが、彼の名前。
私も追っていた、黒ずくめの組織の幹部。
白い肌が歪み、三日月型に口元が動く。
笑っている。
ぞわりと背中が粟立ち私は戦慄した。
何故この男がここにいる、と。
最新のデータを調べてもここに来る様な任務はなかったはずなのに。
昨日ハッキングしたはずだぞ。
「っ！お…」
「レミ、そう呼んで」
レミ。
私は彼らに名前を知られている。
こちらに興味を持たれれば終わりだ。
私も、私のお腹にいる子も死んでしまうだろう。
せめて、偽名を使いここから逃げなければいけない。
ナタリーは心得たという様に大きくうなずくと、
「
と言った。
彼女の笑顔は友達と遊びに来た少女のそれだった。
くいと手を引いて私をその場所から退散させた。
裏道を通り、ダミーの道をたくさん通って回り道をして家に帰る。
つけられている気配もない。
助かった。
「ありがと…ナタリー」
「大丈夫よ、A…あの男のこと、はなしてくれるかしら…」
無理だ。
そう思った。
彼女に彼のことを話せば、彼女自身も危険に晒してしまう事になるからだ。
戸惑っているともう一度強い声で、「話して」と言った。
ぐ、と口を噤んだ私をじっと見てくる。
こう言う時に強い女なのだ。
この女、ナタリーは。
「お願い…話して？」
「…無理だ…無理だよ」
「何故？」
「話してしまえば君をも危険に晒してしまう。
それだけは確実に避けたいんだ」
そう言うと彼女はくるりと向こうを向いてしまった。
嫌ってしまったのか。少しだけ寂しいな。
すると彼女は何処かへ電話をし始めた。
ロシア語だろうか？何を言っているのか分からない。
五ヶ国語を話せると言ってもどうも私はロシア語が苦手だ。
「…許可を得たよ」
「待って何処から？」
「FBI…の、私のお父さん」
「は？」
つまりこう言うことか？
ナタリーはロシア人で英語、ロシア語、日本語をマスターしていると？
え？何その優良物件。
公安に欲しい。
そう思っていると彼女はくすくすと笑った。
「なんてね、冗談よ。
まあFSBには連絡したけど」
「はぁ？？ロシア連邦保安庁かよ！！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：硫酸Ryu☆ | 作成日時：2018年4月11日 18時
