special version 〜藤の契り ページ20
キコ…キコ…
真っ暗な夜の庭園。
翔姫を乗せた一艘の木舟を従者の潤が漕ぐ音だけがひっそりと響く。
池の周りを隠すように鬱蒼と茂る緑の中を進むと舟は藤の巨木の下で止まった。
人目を忍んでの逢瀬
灯りなどはつけられないから、潤が見られるのはぼんやりとした春の月が照らし出す
藤の房が覆いかぶさってまるで薄紫の天衣を纏ったような翔姫が差し伸べる白い指だけ。
S「今日でこうしてそなたと逢うのも最後じゃの…」
M「姫…そのような。今生の世では離れても来世できっとまたお迎えにあがります。証を」
おもむろに烏帽子を脱いだ潤が、懐から小刀を抜く。ギラリと刃が月明かりに反射する。
S「潤?ならぬ。やめてたもれ」
あわてて翔姫が潤にすがると、潤はクスリと笑い、濡れ羽色の髪を一房切り取って刀を収めた
M「…命さえも捨てられぬ不甲斐ない我が心をお許し下さりませ」
潤が髪を小さな錦袋に入れて翔姫に握らせる。
M「故郷へ帰って私は仏門に入ります。しかし生涯、いや来世もずっと姫様だけを想い続けております。」
身分違いの恋に堕ちてしまった二人は、今宵限りで逢う事が許されなくなってしまった。
それでも潤が都払いで済んだのは特に従者として潤を可愛がっていた翔姫の父の温情。
S「潤…」
はらはらとうつむいて涙を零す翔姫を潤がそっと包みこむ。
少し舟が揺れて、紫の影がふわりとたなびく。
M「お顔を。もう一度、拙者にお顔を見せてくださりませ…」
ぼんやりとした月明かりの中、お互いの体温を頼りにそっと唇を合わせる。
S「潤…これを」
翔姫は胸元から桜の匂袋を取り出して潤に渡す。
S「父上に抗えず、髪さえ切れぬわらわを許してたもれ…しかし、必ず来世にはわらわを見つけるのじゃぞ。ずっと待っておるゆえ」
M「…もったいないお言葉。必ず必ずお迎えにあがります。」
S「その時は太陽の下で笑いあおうの…」
またひしと寄り添い、夜が明けるまでの僅かな時間、涙にくれる二人をたわわに咲きほこる藤の花房が風に揺れてそっと覆い隠す。
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千翔(プロフ) - ひゃー( ´艸`) 今回もかわいいですね! しょーちゃん♪ 次の更新も、楽しみにしてまーす(^_^)v (2014年5月28日 18時) (レス) id: 978e8f34d8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆみ(プロフ) - *はな*さん» 星明かりだけの中なんで、照明持参でどうぞ! (2014年5月18日 7時) (レス) id: afc9116f09 (このIDを非表示/違反報告)
*はな*(プロフ) - ザ・セット回転しやがれ〜!…って真似されてましたよね♪今回は綺麗なスイーツのお写真が沢山で嬉しいです♪ イケメン二人が浴衣で散策してる所を…木の影から見ていたい。( 〃▽〃) (2014年5月18日 5時) (携帯から) (レス) id: 2a82fe1f9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆみ(プロフ) - 彌生さん» はじめまして!お山ラバーの方に楽しんでいただけて嬉しいです。謎…ですよねぇ~決めてないだけなんですが(笑)おいおい出るかもしれませんのでお楽しみに。 (2014年5月12日 9時) (レス) id: afc9116f09 (このIDを非表示/違反報告)
彌生(プロフ) - はじめまして!いつもはお山に棲息してます。ここのしょーちゃんが可愛くて、すっかり虜になっちゃいましたぁ♪そんなしょーちゃんをこよなく愛するJもステキだし。でも、何だか訳ありなしょーちゃんの謎がとっても気になってます。これからもヨロシクですm(_ _)m (2014年5月12日 9時) (レス) id: 9c607b9682 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆみ
作成日時:2014年3月12日 17時