超人ちゃんと凡人ちゃん

キスからはじまる私たち（上） ページ1

今日も今日とて彼女にいたずらを仕掛ける。
寝起きに思いついてから、これを試した東堂の顔を想像してずっと楽しみにしていた。
何故ならそれは、私の生き甲斐だからだ。
本を読みながら廊下を歩くサイドテール目掛けて言葉を投げつける。

「東堂、ハイチュウいる？」
「ん、ああ」

整った顔立ちが此方を向く。私はこの瞬間が快感すぎてやめられない。そしてこの綺麗な顔が歪む様を見るのが大好きなんだ。
この顔なしではきっと生きていけない。

「はい、ちゅー」

キマった。
きっと、彼女は怒りと呆れの混ざった顔で私を見ているに違いない。

「ん、」
「！？」

温かく湿った感触。柔らかさに蕩けてしまいそうな意識を呼び戻して目を開ける。
そこには端正な顔立ち。

「うわぁぁーーんっ！」
「何故泣く！？」
「私の渾身のギャグだったのにマジでちゅーしてきやがった！」
「せっかくなのだから頂いておいた」
「君はどんな貞操観念してんだよ！？」
「至極真っ当だが」

教室に向かう生徒たちの注目の的だ。
悲鳴をあげる女子、好奇の目で見る男子。私のチキンハートは阿鼻叫喚の地獄絵図。
これからあと二年間、登校早々東堂シオンにキスを迫った女として生きていかなければならないのかと思うとめまいがした。

「私のファーストキスを返せ！ 今すぐにだ！」
「心配無用！ きちんと責任をとろう」
「責任ってなんだ！ 金か！？」

金なのか！ そうに違いない！ だって私たちまだ中学生だもん。さあ東堂、世界囲碁選手権で出た賞金を私のお年玉積み立て用口座に振り込むのだ！ これで残高が二桁からバーンと、ババーンと！

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