・ ページ7
スタッフさんに案内され楽屋へと向かう。
急いで衣装へ着替え、
ざっと曲の説明を受けながら
ヘアメイクを施す。
Aが巻いてくれたといえど、
元々あまり時間はない。
準備が終わればすぐさまさっきの撮影場所へと戻った。
現場の準備は完了しているようで、
さっきほどのざわつきは感じない。
Aもメイクを直し、
もうスタンバイに入っている。
「ハルトさん、」
「あ、監督、」
「すみません、こんな突然…」
「いや、むしろ助かりました、代役も見つからなかったし、メンバーのハルトさんが相手役をやるっていうのはすごく面白いものになりそうです」
「いや…、はい、そうしてみせます」
「あははっ、頼もしいです」
俺を見て満足そうに笑う監督。
なんだか、想像よりも優しそうに笑うその姿に少し安心する。
気合いを入れていると言ってたこのシーン。
ヤンサ元社長が決めたといえど、
勝手にキャスティングしたも同然。
なかなか納得して貰えないかもと少し覚悟していた。
「曲のコンセプトに関しては聞きましたか?」
「あ、はい、少し」
「それは良かったです」
「この曲は愛しているけども別れを決意した強い女性の曲です」
「今から別れを告げる、そう決めて貴方が演じる愛する人に会う」
「ただ、それを知っているのは女性だけ。貴方は何も知らず女性を愛おしそうに見つめ、触れる」
「今から撮るシーンはそういうシーンです」
俺を真剣な目で見つめながら、監督は話す。
もちろんさっきも聞いた話ではある。
だけど、こう、監督の口から聞くと、
どうも重みが違う。
さっきまで優しく感じた監督から
今や圧を感じる。
「まぁ、そんなに思い詰めず、肩の力を抜いて臨んでくだされば大丈夫です!」
「ただ、愛する人に会う、そういう幸せな時間だと思ってください」
「はい、分かりました」
「では、始めましょうか」
愛する人に会う、
その言葉を聞いて、
少し気持ちの想像ができた気がした。
それに、俺の相手はA。
ありのままの俺で挑めば、
良い物ができる、そんな予感がした。
436人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もなか | 作成日時:2022年10月4日 12時