其ノ拾陸 ページ17
着替えは洗濯カゴに入れるように促し、まだ何か言いたげなAを無理やり脱衣所に入れ扉を閉めた。
「何かあったら呼べよ」とだけ言い、縁側に腰掛ける。
「美味かったなァ……メシ」
ぽつりと、空を見上げながら独り言をつぶやく。
自分は自炊はする方だが決して上手いわけではない。
人が作った飯なんて久しぶりに食べた。
この、久しぶりに感じたなんとも言えない気持ちがなんなのか。確定させたいが焦ってはいけない。むしろ、本当にそれなのか、自分がそんな気持ちを持つのか。そんな、ごちゃごちゃした気持ちを整理するように深呼吸をする。
「……まさかなァ」
その場に仰向けに寝て空をまた眺めた。
すると、ひょこりと顔を覗かれ姿を現すA。
「もう上がったのか」
「はい、とても気持ちよかったです」
ありがとうございますとお礼をするAに違和感を感じる。
「お前ェ……それ、逆だぞ」
「へ?」
着物の右左の着付けが逆になっていた。これでは死人になってしまう。
「そらァ逆だ。お前死人って事になるぞ」
「あ、逆でしたっけ?」
「あと丈が長いな、折り込むか何とかしろォ」
「いや、でも……普段着ないのでわからないです……」
普段着ねェのか。わかんなくて当然だな。
口でちゃんと説明しでもこれはやらねェと分からねぇからなァ…。
「……」
流石に女を着付けんのは無理がある。
「……しゃーねェ、見てろ」
そう言って自分の帯を解き、見えないように布を抑える。
思ってたより恥ずかしい、と言うかどういう状況だこれ。
「……1回しかしねェから、ちゃんと見てろよ」
恥ずかしそうに顔を赤くして頷くAに、少しいい気持ちがした。
散々人の顔や、何やらバカにされてきたからなァ……本気ではないとはいえ少しし返してやるかァ。
なんて、悪戯心が芽ばえる。
技と布をずらして見せれば、恥ずかしそうに目を逸らす。
こいつ、こんな女の顔もできるんだなァ……。なんて感心してしまう反面、もう少し、もう少しとやりたくなってしまうのが、俺の本能。
「……分かったか?」
説明が一通り終わった時に尋ねるとAは消え入りそうな声で返事をする。
目を合わせるとAは熱でもあるんじゃないかというくらい顔は赤く、目は潤んでいた。
少しやりすぎたかァ……。
「あっ……直してきます……」
目が合えばそう言い慌ててその場から離れようとし、そのまま脚がもつれて倒れそうになるAを支えた。
「あっ」
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作者名:かふぇもか | 作成日時:2019年11月3日 15時