煉獄さんはむつかしい

45話 ページ46

杏寿郎side


言い過ぎだ…
俺は寝台の上で大きなため息をつく。
これ程己の行いを悔いたことはない。



彼女は少し驚いたあと

「……なにそれ。意味わかんない。杏寿郎が話しかけても謝っても無視するからじゃん！
じゃあ私なんて言えばよかったのよ！バーカバーカ！」

と涙目で言い放ち、部屋を出ていった。


慌てて追いかけようとしたが

「ついてきたら殴る」

と部屋を出ていく彼女にそう言われた。彼女に殴られたとしてもおそらくなんの損傷も受けないだろうが

今追いかけたら後々精神的に追い詰められる事になりそうだ、と直感した。




彼女を泣かせてしまった。
男として、してはいけない事だ。



俺は彼女の顔を見るたび、あの時の感触が鮮明に蘇ってしまう。
顔が赤くなる。




女性の背中に直接触れたことなんてない。

あんなに柔らかく、なめらかで儚い印象を抱くようなものだとは思っていなかった。



しかし彼女にそんなことを打ち明けたなら、いつまでもその事について考え、想像し、また妄想しているような変態野郎だと思われてしまうだろう。


そう思われるのも間違いではないが、彼女に言われるときっと俺はもう立ち直れない。




彼女を見るたびに自分を抑え込むので精一杯で、会話なんてとてもじゃないが出来ない。



君は話しかけてくれたが

食事の時も君の顔を見るだけでなんとも言えない感情が襲ってくる。

我慢できなくなると、きっと俺は取り返しのつかない事を君にしてしまうだろう。



返事ができない。
君もきっと無理して俺に話しかけてくれているんだろう。

自分に都合の良い様に解釈していた。




ところが君は言った。
全く気にしていないと。



何だ、それは。



俺に見られ触れられたというのに何も気にしていない？



君はそれを本気で言っているのか。

あの時抱きついてきたのは確かに君の方だが、俺は君の背中に手を回したんだぞ。


君の身体を、君の美しい白い肌を俺は見、触ったんだぞ。


それを気にしていないと、そう言ったか？



男に裸を見られることなど特段気にすることではないと？

そもそも俺の事を男だと思っているのかこの人は。



額に手をやり、ため息をつく。


…………まさか、俺の事を優しい兄だとでも思っているのか。

否、悪ければ弟と思っている可能性もある。








しかし、君を泣かせてしまった事に変わりはない。







………謝りに行かなくては。

俺は寝台から立ち上がった。


杏寿郎side終わり！

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