煉獄さんはむつかしい

19話 ページ20

「何をしている」








……杏寿郎のこんな声初めて聞いた。



いつもの明るい声ではない。

ましてや杏寿郎が私に怒るような時の声でもない。







ただ低く、暗く、明らかに怒っていることが聞いて分かった。





杏寿郎は顔を憎悪に顔を歪ませながら、腕を組み、壁に寄りかかって立っていた。







弘さんもその怒気を感じ取ったのか、少し怯んで、しかし、こう言った。





「…何とは？

見ればわかるだろう。愛し合う者同士の口づけだ。

話しかけないでくれるか？
何ならお前も見てゆくといい。


どうせ女と接吻なんてしたこともないんだろう。

せいぜい幼馴染が他の男に奪われる様をその
目に焼き付けておくんだな」







弘さんの嘲るような口調。








なんでそんなこと言うの…？


あなたのことなんか一切好きじゃない。




「………舐めているのか？お前がそれをするのを黙って俺が見ているとでも思っているのか」



憎悪と嫌悪を含んだ声色で杏寿郎が言う。
今やその顔にはなんの表情も浮かんでいない。





「…愛し合う者同士……の口づけだと？ふざけるのも大概にしろ。

……一体なぜAはそんなにも泣きそうなんだ。

お前が腕づくで押さえつけているようにしか見えないな。

…その人から手を離せ。」





「…はあ？なんで僕がお前の言うことを聞かなくてはならない？」









「……手を、離せ、と言ったのが聞こえなかったのか」






低く、地を這うような声が杏寿郎の眼光とともに路地裏のくすんだ空気を切り裂いた。

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