M!LKで桃太郎其の弐 (ページ38)

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佐野「何の話だ」

与力「お前も知らぬわけではあるまい。人の血肉を喰らう、鬼の存在を」

佐野「何だと……」

その言葉で、はっきりとしたのです。
この与力たちは、この死体を使い、鬼をおびき出そうとしておるのでした。
自分たちでは佐野に敵わぬとみて、何と愚かなことか、その相手を鬼にさせようというのです。

佐野「馬鹿め……。人間としての誇りを失ったか？！鬼を使役しようなど、愚かな奴らめ！！」

与力「お前を捕らえられればもう何でもよいわ！さあ鬼よ！！獲物はここにおるぞ！！」

森中に、与力の声が響き渡りました。
その時です。
洞穴の入り口をふさいでおりました岩陰から、数名の子供たちが雪崩でてきました。

子供「お前らも勇斗兄ちゃんをいじめるのか！どっか行け！！」

手には木の枝や石ころを持って、彼らは与力たちへ駆けていきます。

佐野「ば、馬鹿野郎！！出てくるな！！」

与力「な？！こ、子供？！なぜこんなところに？！」

子供「どっか行け！どっか行け！！」

与力「おいお前たち！この子らを保護しろ！きっとこの佐野に捕らえられていたんだ！」

同心「はっ！」

与力の命で、配下の同心や岡っ引きが、岩陰から飛び出してきた数名の子供を捕らえておりました。

佐野「や、やめろ！！乱暴するな！！」

佐野もなんとか彼らに駆け寄ろうとしますが、体が思うように動かず、その場で倒れてしまいました。

与力「このような幼子まで攫うとは、何たる非情な奴め！鬼よりも恐ろしい奴よ！」

子供「勇斗兄ちゃんは鬼なんかじゃない！放せ！」

同心「こら、じっとしないか！」

暴れる子供たちに、同心たちも手を焼いておりました。
けれども次の瞬間、暴れる子供も、それを追う同心たちも、一瞬にしてその動きを止め、ある一点を見つめたのです。
その視線の先。
そこに、大木ほどの巨大な、なんとも恐ろしい異形の化け物がこちらを見下ろしておったのです。

与力「お、鬼だ……！本当に……出てきよった……！」

血に飢えたように、半分開いた口からのぞく、不規則に生えた牙の隙間から垂れ落ちる唾液。
血走ったぎょろりとした目。
額に生える二本の角。
その場にいた全員が、恐怖で一瞬、動けなくなったのです。

与力「あ、あ、あ……あぁ……なんと……恐ろしい……」

佐野「くっ……おいお前ら！はやく逃げろ！！」

佐野は子供たちに叫びます。
けれど、子供たちも、初めて目にするこの巨大な異形の怪物に、恐怖で心を奪われておったのです。