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洞穴のそばの大木で、佐野は吹き矢で喰らった毒が抜けきらず座り込んでおりました。
仁人が最後に置いて行った薬のおかげで、ずいぶんと痺れは取れてきておりましたが、まだ動くことはままなりませんでした。
「いたぞ！」
その時です。
森の茂みの向こうから、何やらぞろぞろと人だかりがこちらへ向かってくるのが見えました。
皆手に刀や十手を持ち、佐野を取り囲んだのです。
「間違いない。佐野勇斗だ」
先頭の一人が、手に持った人相書きと佐野の顔を見比べ、十手でその顔を指しました。
「大悪党である佐野勇斗、今日こそ神妙にお縄に付け！！」
佐野「ちっ……。奉行の差し金か……」
この者たち、与力や同心、岡っ引きを含めた十数名が、悪名高き大盗賊、佐野勇斗をとらえるべく、奇襲をかけに来たのです。
佐野の首には大層な額の懸賞金も付いております故、皆の鼻息も大層上がっておりました。
与力「長きにわたる狼藉も、もはやこれまでよ」
佐野「ふん……お前らごとき下級の武士が、この俺に勝てるとでも思っているのか」
与力「あぁ、そうだな。幾度も同胞を蹴散らしたその力、我々も侮ってはいまい。お前に力及ばぬことは承知の上」
佐野「じゃあどうする？またしっぽを巻いて逃げだすか？」
与力「いや、今日お前を相手にするのは我々ではない」
そういうと、与力は何やら配下の同心に合図を送りました。
その号を受け、同心数名が代八車より何かを担ぎ出し、佐野の前にそれを転がしました。
それは、大の大人ほどある白い袋で、所々が血のように赤く滲んでいます。
佐野「何だこれは……？」
与力「これは先日討ち取った罪人の死体だ」
この大袋に入っているもの、それは罪人の死体だと、この与力はそういうのです。
けれど、なぜそんなものを自分の前にころがすのか、佐野はまだその真意が読み取れません。
こんなものが自分の相手になるとでも言うのか、ほとほと理解できません。
与力「それは単なる餌だ。"奴ら"は人間の血の臭いに釣られてやってくる」
不気味に微笑む与力たち。
一体何が釣られるというのか。
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年7月13日 21時
