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そのほかには、誰も出てこなかったのです。
不思議に思った私は彼に尋ねました。

仁人「他の、皆は?」

佐野「俺が殺した。統領も、盗賊団の仲間も……

お前の親も」

一体何が起こったのか、当時十歳の私にはわかりませんでした。
なぜ、勇斗が皆を殺したのか。
その理由は、今でもわかりませんが。
そして、私を射る勇斗の視線に、恐怖を覚え、私はその場から逃げ出しました。
どこまでも、どこまでも、遠くへ。

気がつけば、私は見知らぬ土地に来ておりました。
親も死に、勇斗もおらず、頼りのものは誰もいない。
他人に助けを求めても、盗賊団の人相書きはこの中津国中に散らばっておりましたから、当然、私の顔も犯罪者として割れておりました。
その為、私は忌み嫌われ、石を投げられ、誰からも相手にはされませんでした。
そこで、私は気が付いたのです。
自分が今までやってきたことが、どれほど罪深いことだったのかを。
もう、神にも見放されたと思いました。
食べるものなく、飢えや寒さで、このまま野垂れ死んでしまうと、そう思ったのです。

けれど、それから数日経ったある日のことでした。
もはや動くこともできず、森の中で()せっていた私の前に、玄白(げんぱく)と名乗る老輩の医者が現れたのです。
彼は、瀕死の私を自分の小屋に連れ帰り、手厚く看病してくださいました。
その時、私は彼にこう尋ねたのです。

仁人「私は、これまで多くの罪を積んできた、悪人です……。それなのに、あなたは何故私を助けるのですか……?」

玄白「人の命に、善いも悪いもありはしない。ましてお主のような子供の命の良し悪しは、誰が決める者でもない」

そう言って、彼はしばらく、私の面倒を診てくださったのです。
そして彼は、私に色々なことを教えてくださりました。
医学はもちろん、人の命の尊さも。
だから私も、命を救ってくれた玄白殿に忠義を誓い、その全ての教えを一生懸命に学びました。
それから数年が経ち、彼は病に臥せり、この世を去りました。
もしかしたら、自分の死期をわかっておられたのかもしれません。
だから私に、その全てを教え込んだと、そう思っています。
私は、彼の志を受け継ぎ、そして、この志をまた後世に受け継ぐ。
それが、後の世代に受け継がれていけば、玄白殿の命も、私の命も、絶えることなく続いていく。
もちろん、これも玄白殿の教えでした。


 

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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月13日 21時

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