M!LKで桃太郎其の弐 (ページ35)

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それから三十分ほど経った頃。
佐野から盗られたものを奪い返すことに成功した舜太たちは、近くの綺麗な川のほとりで休息をとっておりました。
川には小さな魚が群れを成して泳いでおり、その鱗に日の光が反射して、ちかちかと輝いているのが見えます。

舜太「それにしても、よくわからん奴だったな、あいつ」

太智「まぁ、人は見かけによらないってことだよ……。おいらたちが見ている側面が、その人の全てって訳じゃない。
色々あるんだよ。色々……」

舜太「そんなもんかね……」

この中津国中から追われる身の罪人でありながら、あのような孤児たちの世話をする佐野という男に、舜太は大層疑問を抱いておりました。
何故罪人が人助けをするのか。
何故人助けをする奴が罪人なのか。
それに、仁人から聞き及んでいた過去の話。
知れば知るほど、舜太には佐野のことが分からなくなっていたのです。

舜太「でも、本当に良かったのか？親の仇をせっかく討ち取る機会だったのに」

太智「ちょっと大将、それは野暮な質問だよ……」

仁人にとって、その質問はぶり返されたくないものだったでしょう。
太智にはそれがわかっておりましたが、舜太はそんな気遣いができる人間ではありません。
率直な疑問を、ただただ素直にぶつけたのでした。

仁人「いえ、構いません……。でも実際、どうだったんでしょうな……。
私にも、良かったのか、悪かったのか、今となっては今一つよくわかりません……」

舜太「なんだよそれ」

仁人「太智殿が言った通り、人にはたくさんの顔がございます。
今見せている顔が、本当の顔とは限らない。
舜太殿だって、普段は口でつんけんしておられますが、いざというときには私たちを救ってくださるでしょう？」

舜太「は、はあ？！だ、だ、誰が救ってるんだよ？！お、俺は別にそんなつもりじゃない！！俺が鬼を殺したら、たまたまあんたらが救われただけだろ？！」

仁人「ふふ、そうでございますね」

舜太「ったく、あんたたちはいっつもそうだ！俺を英雄みたいに言いやがって！」

仁人「まぁまぁ。……そしてきっと、勇斗も同じでありましょう……。
私にとっては親の仇であっても、あの子らにとったら、彼は親兄弟のような存在なのです……。
そんな奴を、私のようなものが独断で裁いてよいはずはない……。
それが、人の命の重み、ということなのでしょう……」

舜太「……」

太智「……」

仁人の言葉に、舜太も、太智も、黙って耳を傾けておりました。