ページ6
せめてお婆さんだけでも。
その切なる願いを込めて、舜太は家を支えていたであろう柱をどかし、その下で倒れこんでいたお婆さんの体を抱き起しました。
お爺さんと同じように、全身血まみれのその体。
舜太「お婆さん……。俺だよ……。舜太だよ……。ねえ……お婆さん……。早くお爺さんと一緒に、夕飯にしよう……」
舜太は、優しくお婆さんに語り掛けます。
するとその時でした。
舜太の腕の中で、お婆さんがかすかに動いたのです。
媼「舜太……」
舜太「お婆さん！！俺はここだよ！！何があったの？！なんで……こんな……」
媼「鬼じゃ……。鬼が……やってきた……」
鬼。
それは、この中津国に現れた異形なるものどもです。
時折人里に現れては、人を食い殺し、村を焼き払っていく邪悪なる存在でした。
しかし鬼の住処は誰も知りません。
何故現れるのか、何が目的なのか、それすらもわかりません。
ただ、人の力では到底かなわないその力に、人々は成す術なく怯えるだけなのです。
舜太「鬼が……お爺さんも……お婆さんも……」
媼「舜太が……無事で……ほんに良かった……」
舜太「待っててお婆さん！今傷の手当てを―」
媼「舜太……。お前は強い子じゃ……。わしらがいなくなっても……いつまでも……そのままのお前で……いておくれ……」
舜太「何言ってるんだよ！お願いだから……そんなこと言わないで……！」
媼「強く……正しく……生きて……おくれ……」
舜太「お婆さん……？ねえ……待ってよ……。俺を……置いて行かないでよ……。お婆さん！！！」
それから何度呼びかけても、お婆さんは答えてくれません。
もう、彼らは舜太に微笑むことも、一緒にご飯を食べることも、一緒に寝ることもありません。
舜太は、これから一人なのです。
舜太「お婆さん……お爺さん……。行かないで……。俺を……一人にしないで……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年7月12日 18時
