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仁人「これでよし……。なんとか止血が間に合いました……」

太智の脇腹に薬草を摺りこみ、包帯を巻き終えた仁人は一息つくとともに額に浮かんだ汗を拭っておりました。
ここは都の貴族街の、誰もいない商店の中。
少しばかり場所を拝借して、大怪我を負って気を失っている太智の手当てをしておりました。

舜太「そんな盗人助けることないじゃん……」

仁人「何をおっしゃいますか。どんな悪人でも人の子です。命は誰しも平等……。そして、医者として、私の手が届く範囲の命は―」

舜太「はいはい、大層立派な志ですよー」

仁人「まったく……。それにしても、この傷。普通の武器でやられた訳ではありませんね」

舜太「そんなの知らないよ……」

仁人「はぁ……。舜太殿はもう少し周りに興味を持たれてはいかがですか?色んなことを知るということも、人生の醍醐味(だいごみ)でございますよ」

舜太「そんなこと言われてもなぁ……」

昔お爺さんに聞いたことがあります。
自分がどのようにしてお爺さんとお婆さんに育てられることになったのか。
なんでも、赤い箱の中で、赤い風呂敷に包まれて川を流されていたそうな。
それを二人に拾われ、十八歳になるまで大切に育てられたのです。
ですが、所謂(いわゆる)箱入り息子のように育てられた舜太にとって、外の世界はまるで未知の世界。
お爺さんとお婆さんの家で過ごした十八年こそ、舜太には世界の全てだったのです。
そんな舜太は、外の世界のことなどどうでもいいと思っていました。
お爺さんとお婆さんのいなくなった今、鬼を殺すことだけが舜太にとっての全て。
それ以外のことに興味を示している場合ではありません。

舜太「刀も取り戻したし、ここにはもう用はない。俺はもう行くから」

仁人「え?お待ちください!怪我人を放っておくおつもりで?」

舜太「何で俺までそいつに付き添わなくちゃならないんだよ。あんたが診てやってればいいじゃないか。
それにあんたが言ったんだぞ。ここに鬼は入ってこれないって。鬼がいないんじゃ、俺がここにいる理由もない」

仁人「そ、それはそうでございますが……」

舜太「じゃ、そういうことで」

そう言って、舜太が商店を去ろうとしたその時です。
彼の後ろで、かすかに声が聴こえました。

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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月12日 18時

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