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その手には、しっかりと槍が握られており、体中切り傷や火傷で赤黒く染まっています。
彼は、鬼を前にしても、村人を守るために戦ったのでしょう。
舜太「馬鹿じゃん……」
人は何の為に生きるのか。
彼は言っていました。
それは、命を繋ぐためだと。
けれど、村人は全滅し、自分も死んでしまっては、その言葉の意味も、やはり無意味なのでは。
舜太にはそんな疑念がぬぐえませんでした。
しかし、その時です。
仁人の体が、少しだけ動いたような気がしたのです。
舜太「……!」
舜太は仁人の体を抱き起すと、少し揺さぶってみました。
舜太「おい……!生きてるのか……!?」
仁人「舜……太……殿……?」
そして、なんとその呼びかけに、彼は薄っすらと目を開けて答えたのです。
彼は、かろうじて生きていました。
全身血まみれで、傷まみれで、火傷まみれではありましたが。
仁人「何故……戻ってきたのです……。ここには……鬼が……」
舜太「鬼なら殺した……。俺が……」
その言葉を聞き、仁人は舜太の腕の中で、自分が覆い被さっていた村人の方へと視線を移していました。
彼の視線の先では、もう動かなくなった村人が倒れています。
仁人「生きている……人は……?」
舜太「誰もいない……。この村で……生き残ったのは……あんただけだ……」
仁人「そう……ですか……。私は……結局……誰も……救えなかったのですね……」
悲哀に満ちたその瞳に、舜太は目をそらしました。
何故だか、その瞳を見ていると、自分の心まで壊れてしまいそうだったからです。
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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月12日 18時