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仁人「舜太殿のお気持ちはお察しいたします……。けれど、復讐は……何も生みませぬ……。自分の身を亡ぼすだけでございます！そんなこと……」
舜太「あんたの優しさではわからない。俺のこの気持ち……。だから、俺は行く。鬼を殺しに……！」
仁人「いかなる理由があろうと、行かせるわけにはいきません！医者として！舜太殿の命をここで見捨てるわけにはいきませぬ！！
どうしても行くというのなら、私を斬っていきなさい！！」
舜太も、仁人も、お互いの理念のぶつかり合いで一歩も引きはしません。
戸に立ちはだかり、仁人は舜太をこの小屋から出すわけにはいくまいと、壁に立てかけてあった長物の槍を手に取り、構えます。
それを見て舜太も、布団の脇に置いてあった刀の柄に手をかけました。
「先生！」
その時でした。
戸の向こうから、一人の村人が息を切らしてやってきたのです。
急な来客に、二人は臨戦態勢を解いて、その村人に耳を傾けました。
仁人「どうされましたか？！そんなに慌てて」
「末吉が崖から滑り落ちて、足をやっちまった！痛がってるから、早く診てやってくれくれねえか？！」
仁人「それは大変だ……。場所は？！」
「こっちです！案内します！」
仁人「お願いします！」
とは言ったものの、このまま行ってしまうと、ここに仁王立ちする舜太はきっと行ってしまうでしょう。
当の舜太も、それを望んでいました。
「先生、どうされたんです？！早く！」
仁人「……。わかりました……。行きましょう」
共に暮らしてきた村人と、五日前に出会った舜太との命を天秤にかけ、仁人は苦渋の決断を下してしまいました。
手の届く範囲の全ての命を救う、ということも、決して簡単なことではありません。
もしかしたら、それはきっと不可能なことなのかもしれません。
仁人は、またしても己の無力さに嘆くのでした。
けれども、
仁人「舜太殿！決して行ってはなりませぬ！！私が戻ってくるまで、そこで大人しく待っているのですよ！！」
―
夕刻、崖から落ちた村人の末吉は、幸い軽いねん挫と擦り傷で済みました。
そして、仁人が自分の小屋へ戻ると、そこはもう
薄っすらと血のにじんだ布団が転がっているだけでした。
仁人「……行ってしまわれましたか……」
仁人の背で輝く夕日は、まるで血のように赤く染まっておりました。
―
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年7月12日 18時
