あなたと ページ4
橙色をした夕日。足元には私よりも背の高い影。
田舎のこの町は、私の好きな場所。
夕日に手を伸ばす。掴めないのはわかってる。
ただ、あの時のようにしたいだけ。
「帰らなきゃ!カラスが鳴いちゃうよ!」
「本当だ。じゃあ、また明日ね!」
少年少女の明るい声に後ろを振り向いた。
半袖と短パンから伸びる日焼けした手足は、子供達が元気な証拠だ。
その日焼けした手に握られた虫取り網。
懐かしくなって、目を細めた。
子供達が私の横をすり抜ける。その顔は汚れなんか知らなくて、羨ましくなってしまう。
私にもこんな時があったっけ。
今は夏服の半袖のセーラー服に身を包み、背もだいぶ伸びてしまったのだけれど。
──ダメだな。
革製のカバンをギュッと握りしめる。
そうして歩き出そうとすると、前を走っていた男の子が振り向いた。
小麦色の肌から真っ白な歯を覗かせて笑う姿は、あの人によく似ている。
「……お姉ちゃんも早く帰らなきゃ、ママに怒られるよ?」
「え……?あぁ、そっか。そうだね。じゃあお姉ちゃんも帰ろうかな」
「うん!」と元気に首を縦に振り、また走り出す男の子。
その先にある夕日はどんどん沈んでいき、男の子を焦らせてる。
もう一度、手を伸ばした。
相も変わらず掴めない。
『大きくなったらさー、この夕日掴めるよな!』
ニシッと笑うあの人が蘇る。
あの頃からだいぶ成長したのに、まだまだ夕日には程遠いみたい。
あの人との距離も、程遠い。
今どこにいるのかも、何をしているのかも、元気にいるのかでさえわからない。
だからすがってしまう、過去に。
「どこにいるの」
私よりも三つ歳上で、この田舎に飽き飽きしていたのを私は知ってる。
でも、何も言わずに中学卒業を機に上京しちゃうなんて。
「届かないや……」
私はようやく今年卒業。
あなたに会いたい。
「みーつけた」
少し低い声。でも、私はこの声を知ってる。
嗚呼、涙がこぼれそうだ。
「……おかえり」
「ただいま」
ニシッと笑うのは、あの時と何も変わっていない。
いつか、あなたと夕日を掴めたら。
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暗いのが多かったからハッピーエンド?を投下。
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作者名:緑風椽 | 作成日時:2014年9月3日 17時