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☆《モトキ》散髪 ページ12

静かな部屋に

雨と鋏の音だけが響く。

切り落とした彼女の髪が

足元を埋め尽くした。


「すごい、どんどん頭軽くなる」

「もうかなり切ったからね」


既に彼女の髪は

肩より短くなった。


「まだ切るの?」

「まだマサイより長いでしょ」

「そりゃそうだろうけど」


少し茶色がかかった髪を手ですくう。

重たかった髪は

今はすごく軽くなっていて。


「もったいねーな、綺麗なのに」


率直に思った感想だった。

気の利いた褒め言葉でも

お世辞でもない。

本心でそう思った。


「いいの、モトキだから」


今までより少し低いトーンの声だった。


「どういう、意味」


何故か聞くのが

少し怖いと思った。


「深い意味は無いよ?」


さっきまでの明るいトーン


「他の人に切られたくなかった、だけ」


最後の方は擦れてしまって聞こえなかった。

ちゃんと表情は見えないけど

わかる。


「…なんで照れてんの?」

「わからん、何か恥ずかしかった」


両手で顔を覆って俯いた。

白い項が

髪の隙間から見えた。


「ふーん、俺にならいいんだ」


指で髪の毛をはらう。


「だってモトキだし」

「俺なら何、安心?」


あらわになった項は

やはり真っ白で。


「無防備な背中預けても大丈夫だって思った?」

「そりゃ、モトキだし」


その一言で

俺の中の何かが外れた気がした。


「ふーん…」


持っていた銀色の鋏を

音もなくポケットに滑り込ませた。


「俺だから、ねぇ」


指の腹で項をなぞった。


「ふぁ、モトキ?」


驚いた彼女が想像以上に甘い声を出した。

そのまま指を項から耳の後ろまですべらせる。


「えぁ、ちょ、くすぐった、ひぁっ」


ちょうど首筋に触れた時

1段と大きな声を上げた。


「へぇ、首筋ね」

「あっ、ちが、やめろ」


慌てて振り向いた彼女は

こっちが驚くほど真っ赤で。


「何が違うの?」

「別に、なにも」

「首筋が弱いこと」

「違う、弱くない」

「うそつけ」


すっ

と、首すじに手を伸ばした。

同時に

びくっ

と、体が反応する。


「ふあ、ちょ、やめ」


彼女の細い指が

俺の腕を掴む。


「やだ」


その腕を掴み


「うぁ」


強く引いた。

椅子が倒れる音と

ソファに彼女を押し倒す音が

見事に重なった。


「俺だから安心とか思ったら大間違い」


切りかけの中途半端な長さの髪をすくい上げる。


「実は期待してたでしょ、A」


真っ赤になった彼女は

諦めたように目をつぶった。

ヒトリゴト 【ざかお】→←☆《モトキ》散髪



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林檎 - 長文失礼しました。更新頑張ってください! (2016年7月27日 23時) (レス) id: 8eb33a0bf7 (このIDを非表示/違反報告)
林檎 - 面白かったです!余談ですが、風邪を引いたときにウィダーインゼリー飲む人ですか?ぺけたんの話を見ていたら、出てきたので・・・私はお粥があまり好きではないので、ずっとウィダー飲んでいますw (2016年7月27日 23時) (レス) id: 8eb33a0bf7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:HERMÈS | 作成日時:2016年6月26日 16時

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