お転婆お姫さまと桃鬼さんの珍道中【桃】 三

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俺が守りたかったものは、京子の笑顔だ。


なのに結局泣かせてしまってる。



「こいつが助かるのが京子の望み？ 未練はない？」

「……ないわ。この子を産みたい」

「そっか。わかったよ。じゃあ少し我慢しな」



京子の命が尽きる前にと刃から腕を抜き取れば、ドバドバと血が溢れた。


止血してももう無理だろう。

だったら俺がやるのは京子の望みを叶えてやることで、俺は自分の両手を腹の上に置いてグググッと中に押し込んでいく。



「あ"あ"あ"っっ」



痛いよな。ごめんな。

でも今すぐに会わせてやっから耐えろよ。


腹を切っ割いて、立派な赤子を取り出した。





「ほら、立派な男の子だよ」

「はっ、はっ、はっ、ううっ、ううううっ」



京子の胸に赤子を抱かせてやると、京子につられるように赤子は声を上げて泣いた。



泣き顔なんて見たくねぇ。




「…辰哉、……ありがとう。 ありがとう。この子は蓮、蓮よ。ああ、なんて可愛いの。愛しい我が子」

「っっ、」





不思議だった。

泣いているのに、笑っていて、これまでで一番美しい笑顔だなって。




「京子、お前は幸せ？」

「幸せよ、ありがとう」



その言葉を最期に京子はその命を終わらせた。


ゆるりと白い魂が抜け出し、何度か赤子の周りを回りその後俺の頬に擦り寄って消えていく。




「ああ、これが……泣くって事なのね」



拭いてくれようとしたんだ？ ありがとな。




「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣く赤子を抱き上げる。





「なあ、お前はどうしたい？ 生きていけないっしょ？」


母ちゃんのとこ連れて行ってあげる方が良いんじゃないかって。


そう思って赤子の細い首に手を押し当てたけど、浮かんでくるのは最期に見た京子の泣き笑いの笑顔で、思い出すとボロボロと涙が溢れ視界が歪む。



「なぁんでよ、なんで、こんな、こんな気持ち知りたくなかったわ。ほんともうっ、くそっ！」




こいつが生きることが、京子の幸せになるなら。



俺はこの時、死神として生きる最後のチャンスを手放したんだ。



こいつの、蓮の父として生きようと決めた。







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