episode.36 チェシャ猫 ページ39
「へぇー、いいこときいちゃったー」
そういって現れたのは、情報屋の榎田だった
「しかも泣き跡あるし。レア〜」とニヤニヤしながらスマホを取り出した
彼を見ていると“a grin like a Cheshire cat”という英語慣用句を思い出す
オックスフォード辞典で調べると、
19世紀にイギリス人作家
ちなみに原題は“Alice’s Adventures in Wonderland”だ
だからこの文を簡単に説明すれば(直訳してもいいが)、“チェシャ猫のようにニヤニヤしている”という意味だ
って、こんなことを考えている場合ではなかった
目の前にいる金髪チェシャ猫キノコ野郎に、そしていらぬことを考えていた自分にムッとしてしまう
『消してください、榎田くん』
「え、ヤダ」
即答かよ…
「お前は何で来たんだ？」
重松が金髪チェシャ猫キノコ野郎に訊くが、彼はスマホの画面を開きニヤニヤしたままで答えようとしない
「俺が呼んだんばい
刑事さんでも調べることんできんこともあるかて思うて」
代わりに答えた馬場に「俺が調べなくてもよかったじゃねぇか」とぼやく重松
「そうだよ馬場さん、ボクにできないことがあると思ってるの？」
少し得意気に言った
「国道3号線を渋滞させることだって簡単だよ」
この言葉にイラッときた
元々イラつく奴だとは思っていたが、それらが募りすぎだ
『じゃあやってくださいよ』
僕は彼に向かって挑発するように言った
すると「やってあげるよ」と、鼻で笑いながらノートパソコンを取り出し、キーボードを叩き始めた
10本の指が、難しいピアノの曲を弾いているかのように、忙しなく動く
数分後、パソコンの画面に国土交通省をハッキングしたものが映し出されていた
国道3号線の全ての信号機が赤になっている
僕はそれを見て、仕方なしに両腕をあげた
『…完敗ですよ』
侵入の仕方も、ハッキングの技術も完璧すぎる
こんなものを見せられたら、認めざるを得ない
『だから、戻していいですよ』
僕は画面を指しながら言った
「え、何いってるの。このままにしておくよ」
彼は不適に嗤っていた
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作者名：星奈 | 作成日時：2018年10月13日 10時
