【QK】五重奏の鍵 (ページ44)

今日:2 hit、昨日:44 hit、合計:12,533 hit

「集合時間になるちょっと前に、伊沢さんと合流して」ページ44

買い出しを終えても想像通り、まだまだ時間に余裕がありました。だからオフィスで時間を潰そうと思っていました。だけど晴れてるし、せっかくの休日だったので散歩してからプラネタリウムに行くことにしたんです。…あの時はとても暢気でした。『運動して疲れたら、プラネタリウムの席についた瞬間寝るんじゃないか』とか考えてましたから。
9月前半の陽気にしては暑い街を歩きながら、遠回りでプラネタリウムに向かっていました。

集合場所手前の横断歩道で、向こう側に伊沢さんを見つけて手を振りました。手を振り返してくれたので、気づいてるんだ！と思い信号が青になるのを待っていました。

信号が青になり、軽快な小鳥っぽい鳴き声と騒音の中。伊沢さんと目が合って、貴方は走ってきました。

その時でした。

貴方の右側から…猛スピードの車が、走ってきて。
ぶつかり、ました。

伊沢さんが、前から来る人を“右”に避けたときでした。

…他に巻き込まれた人も…いますが、伊沢さんが、一番、重症です。…運転手を含めて…

____________________

そのとき山本が何を言いたいのか、わかってしまった。

…もし事故に遭うのが俺じゃない誰かだったら。その時はそいつの気も知らず、良かったと思うだろう。
…もし、一番重症を負ったやつが、運転手なら。俺は自業自得だなって、一瞬でも思ったかもしれない。
それでも現実は俺だった。
山本は、この事故を『伊沢のせいではない』とすれば、誰のせいだと思うだろうか。

「…ごめんな、心配かけて。おれは大丈夫だから…」
生きてるし、と呟いた。
「…はい…下ばかり向いても、ね。はい…」
強いな、と思った。
なんか声かけたほうが良いとは思うが、全く思いつかなかった。山本も元気は無く、言葉とは反対に下しか向いていない。

ガラッ

「時間超えてんだけど」
するとドアがあいた。須貝さんの声がする。
「あっ…ごめん」
「いいけど、話すこと無くなったんなら変われや」
「ごめん…」
「良いって言ってるでしょ！」
須貝さんが部屋に入ってくる。廊下の方からは、『須貝さんキレ気味だったよ〜』と福良の声。
「山本！怒ってないからね。福良はデマを流すな！」

なんだかいつも通りのやり取りに笑えてしまった。
なかなかドアは閉まらなかった。