＊ ページ32
「なん……！？え……？？」
目の前の非現実的な出来事のせいで声が出ない。
かひゅっ と息を飲む音と嗚咽が嫌に大きく聞こえる。
異形のものへと姿を変えた『将さん』はゆっくりと私に近づいくる。
「いっぁ……！！こなぁ、で……」
「そんなに怖がらないでください。暴れなければ意地悪しませんから。」
人間のものよりも遥かに大きい2本の腕で脇から抱えあげられ、目線が彼と同じ高さになる。
『将さん』の瞳の色は白目までが真っ黒で、どこまでが目なのかわからない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「Aさんは本当に可愛いですね……愛想が良くて、素直で、優しくて……こんな化け物に騙されるくらい単純で！！！！」
直感的に死を覚悟したからなのか、
あぁ、やっぱり私って馬鹿だなと頭だけが冷静になる。体の震えは止まらないし、凄く怖いけど。
素直になれない気持ちのせいでこんな化け物に騙されるなんて。シャオロンの言った通りだった。
もっと素直だったらこんなことなかったのかな。
己の愚かさと想い人への後悔で涙が1つ零れた。
ギチギチと締め上げられる体の痛みが段々わからなくなってくる。
「"アイツ"の住処の前で"お気に入り"を奪えるなんて俺はなんて幸運なんだ！！感謝しているよ、Aさん。」
彼の腹の口がガバッと開いた音がした。
そっか私食べられるのか、と妙に冷静な頭は理解した。だから食生活の事とか聞いてきたんだと合点もついたが、もうこの状態では何も出来ない。
助けを呼ぶ声も出ない私はそのまま、
ﾁﾘﾝ
どこからともなく吹いた風が誰かの鈴の音を鳴らす。
その音を聞いた将さんはピタッと動きを止めた。
ﾁﾘﾝ
私の体締め上げていた力がずるっと抜けた。
えっ、と声をあげるよりも先に体が地面に衝突…
しなかった。
ふわりと誰かの腕に抱えあげられた。
ぎゅっと大切そうに抱えられ、思わず私も顔を埋めてしまった。緊迫した状況の中誰かの腕の中は安心感があった。
それは何度も嗅いだことのあるお日様の匂い。
間違いない。私を抱えているこの人物は
意地悪で
悪戯ばかりで
目の前にある家に住んでいる
私が世界で1番好きな
大好きな
「シャオ…ロン？」
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