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ある夜、山の裏で月を見ていると、村の方が騒がしかった。まぁ冬になると雪や氷を見てはしゃぐ子供達が多いもんだから、不思議な事ではないが、何やら様子がおかしい。
気になって村を見に行くと、
火で真っ赤に染まった村があった。
冬場は空気が乾燥するから火事になりやすい。しかもここの村は藁の屋根が多いから非常に燃えやすい。きっと最初は1軒だったのがどんどん広がり、こうなったのだろう。
「………っ！」
彼女の家が燃えている。
崩れ落ちている度合いから、あそこから出火したのだろう。
「うそ、やろ……」
彼女が家を見ていると裏口から1人の女の人が出てくるのが見えた。
その人は人のいる方には向かわず、山の方へと歩いて来るのが見える。
「はっ…！」
彼女だ。
私は何も考えず、走って山を下りた。
山の入口からすぐの所に彼女はいた。
すすで酷く汚れており、呼吸も苦しそうだ。
火事に巻き込まれた時に煙を吸ってしまったのだろう。
「………！Aさんっ！」
声をかけるとビクッと肩を震わせ、私の方を見た。
その目は潤んでおり、髪、服装、化粧など全てが乱れていた。
「えみ、先生……」
ガタガタと足を震わせて、私の方へと歩き、駆けてきた。
「わ、わた、私……」
酷く動揺しているようで、いつもならスラスラと言葉を紡ぐ彼女の口からは意味を成さない音しか出てこない。
だからこそ、私は落ち着いて彼女に問う。
「…Aさんお久しぶりです。あなたの家が火事になっていたのは見ましたよ。…何かあったのですか？」
ポンポンと子供をあやす様に彼女の頭を撫でる。私の腕の中でガタガタと震える彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「今日、練習してたんです。花嫁の修行、料理とかを。そしたら、火を消してなくて。私が、水をかけたけど止まらなかった。お家が焼けた、母さんが最初に。父さんは私を庇って、怪我をした。私は、崩れた所から這い出した。隣のお家とか、焼けてるのも見た。私のせいで、村の人に迷惑が……」
そこまで言うと彼女はまた震え始めた。
罪の意識のせいから涙すら出ないのだろう。
そんな彼女を見て、私は。
(あぁ、彼女はまだ子供なんだ。花嫁修行なんて言ってるけど失敗してしまうくらいの。私にとって彼女が大人になる事はないのだな)
本当に最低な奴だと自分でも思っている。
彼女がこんなにも辛い目にあっているのに。
こんなにも苦しい思いを吐き出しているのに。私は結局。
彼女が自分を頼ってきてくれた事に酷く満足している。
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