第6章 過去の約束 ページ49
私は、常識というものがつくのが少し遅かった。まぁそりゃそうだ。俗っぽいが金持ちの一人娘だからだろう。
だがいつからか、自分の生誕した日を特別なものだと思うのが常識だと知り、これがおかしなものだと分かってしまったのだ。
豪華な食事、美しい音楽、自分よりも一回り、二回り年上から発せられる言葉は
「創立○○周年、おめでとうございます」
だ。
それが普通だと思っていた。
同級生がつい先日、自分のために開かれたバースデーパーティとやらを自慢するのを聞くまでは。
自分の名前が入ったケーキを、自分のためのプレゼントを、おめでとうという言葉を、たくさん貰う日なのだと。
……きっと私の世界には、誕生日という概念がないのだ。何せ生みの親である2人は私ではなく病院のほうが大事なのだから。
そう思うことにした。
大人達に睨みを聞かせれば中学生のくせに生意気な、と囁かれる。じゃあどうしたらいいんだと泣きそうになって、群れる大人を押しのけてベランダに逃げた。
その中で1人、私を可哀想だと哀れみの目を向けた人がいた気がした。
ベランダに出て扉を閉じると、ガヤガヤとした喧騒が小さくなってほっとした。と同時に今すぐ身を放り投げてやろうかと自暴自棄になった。
その時、どこからともなく声がしたのだ
「ここから落ちても死なないぞ、小さなスピネル」
後ろを見ても誰もいない
ここだ、と上から声がした。ありえないと思ったが、本当に屋根の上に人がいた。
「……誰ですか」
「招かれざる客さ」
屋根のヘリに器用に座っている。
薄暗くてよく見えない上に、恐らく彼は全身黒なんだろう。けど不思議と恐怖はわかなかった。
「私と一緒ですね」
「そんなはずないだろ。そこに立ってると危険だ。早く中に入るといい」
「…私がここから飛び降りるとでも?」
「いや、君はそんなことする子じゃないさ」
私の何を知ってるんだ。
「しませんよ。そんな誰のためにもならないようなこと」
「……」
我ながら醜い性格だと思った。せっかく心配されてるのに、皮肉でしか返せない。
結局周りを突き放してるのは自分なのだ。
「そこから動くなよ」
「え?」
一瞬、風が吹いたかと思ったら隣からほんのりと香水が香った。
華麗に降り立った彼の、暗くて見えなかった端正な顔立ちがはっきりと見えた。
深緑の瞳が、綺麗だと思った。
「……自分を否定してはいけない
この世で誰よりも心強い味方は、自分だけだ」
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理那(プロフ) - あぁ!そういうことでしたか!私よく絵を描くので知ってて!実際あんま覚えてなかったのでよかったです! (2020年5月22日 0時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぴみ(プロフ) - 理那さん» ご指摘ありがとうございます!!すみません、自分単行本派なので赤井さんの目の色すっかり勘違いしてました(号泣)訂正したのでまたよろしくお願いします! (2020年5月21日 23時) (レス) id: bf70a421f2 (このIDを非表示/違反報告)
理那(プロフ) - 赤井さんって目は黒じゃなくて緑色、だった気がする?いやすみません間違ってたら!無理のない程度に頑張って下さい! (2020年5月21日 21時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
イアデビル(プロフ) - めっちゃ好きです!更新頑張ってください!応援してます! (2020年5月6日 3時) (レス) id: ef5404f845 (このIDを非表示/違反報告)
腐夢(プロフ) - 初めまして!番外編も本編もとても面白くてにやけながら読みました!読みやすいし感情移入しやすいのでとても読んでいて楽しかったです。素敵な作品をありがとうございます┏○))ペコリ (2020年4月29日 23時) (レス) id: 93d427ce7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピミ | 作成日時:2018年7月6日 14時