月夜に舞う (ページ10)

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scene9 ページ10

結果、目黒との夜はお亮にとってとても楽しいものだった。
二人は一晩色々な話をした。目黒の話はお亮が知らない、知ることのできないことばかりで新鮮だった。

お亮の心は今までのどんな夜より満たされていた。

目「私は街で会った貴方も花魁の貴方も素敵だと
　思います。
　私には貴方に会えるほどのお金はないけど、
　いつかまた。」

お亮は自分の本音などなにも言ってないのに目黒は最後にこう言った。

阿「ありがとうございます。ほんに嬉しいお言葉で
　ありんす。」

冷静な言葉とは裏腹にお亮は泣きそうになった。
いや、頭を下げ目黒から見えない様にして泣いた。

今まで雪華大夫としてしか認めてもらえなかったお亮にとって、そうじゃない自分を素敵だと初めて言ってもらえたのだ。
また会おうと言ってくれたのだ。

「姉さん、また苦しい顔してるよ。」

阿「とっても嬉しいの。でもそれ以上に苦しいの。」

「…。姉さん、わっち達にとっての自由ってなんだ
　ろう。」

阿「わっちらの様に売られた人間には自由なんて死ぬ
　まで存在しないのだろうと、わっちは思うよ。」

「…そっか。」

まだ幼い禿には残酷なことを言っていると、お亮は分かっている。
でも妓楼という場所は、既に男の醜い欲に汚れた自分やこれから汚れてしまう禿達に少しの希望も見してくれないことをお亮はよく知っていた。

阿「でもわっちはお前たちと離れたりなんかしない
　よ。」

「うん、ありがとう。姉さん。」

お亮は禿を抱きしめ、一筋の涙を流した。