月夜に舞う (ページ3)

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scene2 ページ3

「お亮姉さん、おはようございます。湯浴みの用意
　できんした。」

禿は障子を開けると髪を靡かせ窓の外を眺める太夫の美しさに息を飲む。

阿「おはよう。いつもありがとね。」

白粉をおとし、肌着から肩を覗かせるお亮は夜の妖艶な雰囲気とは一変し日が当たることで儚さが増す。

「…姉さん、肩に傷が」

湯浴みを手伝う禿はお亮の陶器のような肌に歯形の傷を見つける。

阿「…はぁ…」

禿の言葉にお亮は昨夜の客を思い出す。

阿「主によしゃれと言いんしたのに。これじゃ数日
　はお客取れないね。女将さんに伝えておくんな
　んし。」

心底嫌そうなのに、少し嬉しそうに口元を綻ばすお亮に禿は首を傾げる。

阿「わっちの顔に何かついてるかい⁇」

「姉さん嬉しそうでありんす。昨夜の旦那に跡を付
　けられたのに」

阿「もちろんこんな欲の印、わっちぁ好きいせん。
　けどこの傷がある間は休める。」

「姉さんはやっぱりここから抜け出したい⁇」

お亮は不安げに自分を見る禿を見つめ優しく微笑む。

阿「もちろん出たい。でも妹たちを見捨てたりなん
　かしないわ。だからわたしが休みの日にこっそ
　り街に出ることは女将さんには内緒よ。」

白糸のように細い指を口元に持っていき微笑むお亮に、廓言葉ではないお亮に、見捨てないと言ってくれたお亮に禿は複雑な気持ちになり泣きそうになりながら頷く。

阿「そんな顔よしなんし。夜の戯れは好きいせんけ
　ど、芸事のお稽古や字を習うのはいこうに好き。
　女将さんやあなたたちもよくしてくれなんす」

「わっち姉さんが大好きでありんす。」

阿「ありがとう。わっちも大好きよ。」