じゅう ページ10
それからの学園生活は本当に大変だった。
いつのまにか開店していたモストロラウンジに、
いつのまにか皆んな入っていた部活に。
あれやれこれやれ、涼しい顔して数をこなしてゆく生徒たちに、私は翻弄されっぱなしだった。
…まあ、悪ガキとはいえ腐っても優秀な魔法士の卵たち、そんな彼らのスピード感に、凡人の私が着いていくなんて無理なわけで。
学園内の端も端、廃寮のズタボロソファに寝転がりながら、デカいため息を一つ吐いた。
オクタヴィネル寮にいるとフロイドたちにちょっかい出されるし、中庭とか目立つところにいるとあのポムフィオーレの人に狩られそうになるし。
…皆の楽しそうな顔も、あんまり、みたくないし。
人が寄りつかないこの廃寮は、そんな私にとってオアシスみたいなもので、いつのまにか放課後はここで過ごすことが多くなっていた。
「(…海の高校に進学してれば、もっと楽しかったのかな)」
携帯を取り出して、自分のマジカメのポストをなんとなくスワイプしていく。
アズール、フロイド、ジェイド、…アンナ、サラ、母さん、父さん…。
ジワリ、視界が歪んで、慌てて目元を拭った。
3月にNRCに連れてこられて、9月に入学して、やっと3月。
クリスマスも年末も帰れなくて、母さんと父さんと会えなくて、なぜか電話すらもできなくて。
こんな生活が数年続くと思うと、胸がぎゅうぎゅう痛くて泣きたくて仕方なかった。
「おや、シレーヌ」
「！？」
こ、この声は…。
突然現れた気配にガバリ体を起こすと、そこには案の定、ソファの背もたれに肘をついてこちらをニコニコ見つめる狩人がいた。
「な、なんで、ここが…」
「いやなに、廃寮に通りすがったら、キミの香りがしたものだから」
「香り！？」
毎日お風呂入ってるのに！
そんなに臭いのかと自身を嗅いでいると、ふと狩人が私の目元に手を添えた。
「泣いていたの」
「いや、あの、…埃が」
「オララ、赤くなっているよ」
眉を下げて、かわいそうに、と私の瞼を指でなぞる彼。
氷のような彼の指は熱を持った顔に心地よくて、つい、ほんとについ、その指へ顔を擦り寄せてしまった。
そんな私に僅かに目を見開いた狩人は口を開けて…、しかし、言葉はつんざく悲鳴にかき消された。
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作者名：ほこり | 作成日時：2020年12月23日 2時
