セイレーンの受難 (ページ4)

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よんページ4

最近気付いたこと。
それは、フロイド・リーチが授業なんて受けるはずがないということ。

煌めきの海藻とマンドラゴラの枝を手汗まみれで握りしめながら、ギギ…とゆっくり隣へ頭を向けてみる。
…そこには頭の後ろで手を組みながらゆらゆら揺蕩う、フロイドがいた。
私と目が合うと、にっこり。ご機嫌そうだ。
ああ…これで何回目だろう、クラスが違うはずのフロイドが私の隣で授業をサボるの…。
いつも通り、担任のジョセフィーヌ先生が私を本気で睨みつけた。
ひ…。

「シレーヌ・ルー。追加でマンドラゴラを持ってきてください。…そして、それを元のクラスに戻してきなさい！！」
「はいいいい！フロイド！」
「なあに」
「クラスに戻るの！はやく」

クラス中の鋭い視線から逃げるように、私はフロイドの手を引いて教室を出た。
やだやだ、フロイドの顔もクラスのみんなの顔も見たくない！フロイドが何か言っているような気がしないでもないが、ずっと真っ直ぐ振り向かずに泳いでいく。
フロイドのクラスは2個隣で直ぐそこ、ついた途端にもちうる握力全てを使ってフロイドを教室の中へぶん投げた。
ピャ、なんて間抜けな鳴き声が聞こえたけど、し〜らない！
とっととマンドラゴラ調達して今日の課題を終わらせないと。
全速力で資材室に泳ぎ込み、マンドラゴラを探す…、と突然部屋のライトが消えた。
ひ、と狼狽える私を嘲笑うように、部屋のドアが勢いよく閉められ、ガチャリ、鍵が閉められた。
…まって、資材室って内側の鍵壊れてなかった？
信じられない気持ちで確認、…案の定壊れていた鍵に絶望していると、外側からコロコロと笑う声が聞こえてきた。

「くすくす」
「フロイドくんにベタベタするからよ」

え、えー…。フロイド絡みなの、これ…。
あの子がそんなに人気だと思わなかった。顔は綺麗だけど、でも、あの性格じゃん。
いやいや、ちがう、フロイドが人気な理由じゃなくて、…今の状況だ。
今までどんなに白い目で見られても、揶揄われても、ここまで露骨な嫌がらせはなかった。

はあ、大きなため息を一つついて、床に座り込む。
先生が気づいてくれるだろうから、別に大して怖くはないけど。
廊下からの光が天井でゆらゆら揺れているのをみて、なんとなく、フロイドを思い出す。
私の安寧を脅かす、災害。…でも、あの無邪気な笑顔に絆されてないかと言われると、わからない。

我が愛しき災厄。私の頬に触れた、あの冷たい指を思い出しながら、目を閉じた。