じゅうご ページ15
フロイド先輩がわたしのお菓子を食べたいって言ったから、つい、嬉しくて。
「ふな、オイ。ユウ！まさか今から持ってくのか？」
「うん。だって、今日がいいって言ってたし」
げげ、苦い顔で固まったグリムは、しらねーぞ！と捨て台詞を吐いて寝室へ走っていった。
自分でも中々バカなことをしているってことは薄々分かってる。でも、…この胸のトキメキがわたしの頭をぼんやりさせて、仕方ないんだ。
巡回の先生に見つからないように、静かに、はやく、夜の学校を駆けていく。冷たい空気が吹き抜ける廊下、鏡を抜けて、ひんやりと深海の温度が漂うオクタヴィネルへ。
さ、あとはアズール先輩にフロイド先輩の部屋を教えてもらって…。
バタン！
扉が大きな音を立てて開いて、そしてアズール先輩が飛び出してきたかと思うと、廊下の奥、蝋燭が微かに照らす暗闇へすぐに消えていってしまった。
う、うそ、アズール先輩だけが頼りなのに！
思わず走り出して、…誰かにぶつかった。
「す、すみません！」
反射的に謝って顔を上げると…、
美しい人が、そこにはいた。
深い海色の髪をふんわりと漂わせて、浅瀬の珊瑚のような目は角度によって色を変えているようで…その白い肌はまるで深海魚のように怪しく発光していた。
ああ、彼は確か…ーー、フロイド先輩たちの幼馴染だ。
アズール先輩かフロイド先輩、ジェイド先輩のうち誰かが必ずぴったり近くにいて、なんとなく近付きづらい存在。
彼らと多少仲を深めたわたしでさえ、彼に話しかけることを許されたことはなかった。
他寮生は立ち入り禁止だよ。
柔らかい声でそう告げた彼の目は、その声に反してひたすらに冷たくて。お菓子の袋をぎゅ、と握りしめて、なんとか謝った。
「なにか、用事が？」
「ありがとうございます。実は、…フロイド先輩にあいたくて」
わ、告白しにきたみたいになっちゃった。急に恥ずかしくなって、熱い顔を隠すように俯いた。
「じゃあ一緒に行こう、監督生さん」
「へ」
不意に近くから響いた声に顔をあげると、そこにはわたしを覗き込む美人がいた。すごい、本当に綺麗。
少しの間見惚れて、はい、といつのまにか喉がなっていた。
わたしの返事に気をよくしたのか、彼はにこりと微笑んでからわたしの手をとって。柳のような指がわたしの手の甲をなぞったりなんかして、もうわけがわからなかった。
こぽこぽ、泡が上るような音。
遠くから微かに響く、誰かの歌声。
青い廊下を、ふたりで黙って歩いた。
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作者名：ほこり | 作成日時：2020年12月23日 2時
