セイレーンの受難 (ページ12)

今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:884 hit

じゅうにページ12

授業の終わりを告げる鐘がなる。
私はそれを聞くと同時に、まとめていた荷物を抱えて廊下へ飛び出した。
万年優等生(成績不振)の私が、なぜトレイン先生に睨まれるようなことをしているのか。それはーー…。

「ぎゃー！」
「ま〜た逃げようとしてんのお」

…フロイドから、逃げるため。

廊下に出た途端、邪悪な化身ことフロイドにヘッドロックをかけられた哀れな人間オス、シレーヌ。
どうやら、我がクラスが終わるのを廊下で待ち構えていたらしい(最悪)。

にんまりヴィランスマイルを深めながらガチリ締め付けてくる腕、正直勝ち目はない。
でも、でも！私だって今一応オスだし！
戦うぞ、とピチピチ暴れてはみたものの…、首に回る腕は微動だにしなかった。私も今一応オスなのに…。

そんな不幸を後ろで爆笑するクラスメイト。
明日お前たちの鍋にロバの涎ばかみたいに入れてやるからな。

「今日は、今日は、イデア先輩と約束が、」
「だあめ♡シレーヌは今日も寮で大人しくしててえ」
「うぐ」

ヘッドロック解除、そして俵のように担がれた私は敗北を確信してだらりと脱力した。もう、だめだ…ーー。
あ、廊下の奥にオロオロ立ちすくむイデア先輩が見える。ごめん、イデア先輩。私が無理やりゲーム誘ったのに、こっちからドタキャンなんて…。
うぐ、と涙を拭う私。なあ、手叩いて喜ぶなクラスメイト。お前らがフロイド対私の連日の勝負にマドル賭けてんの知ってるからな…私のオッズがゲキ高くて最早ラギーしか賭けてないの知ってるからな…。

そうしてモストロラウンジの端の席に押し詰められた、シレーヌくん。
いつの間にか寮服に着替えていたフロイドが注文してもいない料理をいくつか置いたかと思うと、私の頭をひとなでしてキッチンへと戻っていった。
そこからはもう、いつもの通り。
フロイドが給仕のついでに絡みついてきたり。
ジェイドが隣で私のお話し役をニコニコ担ったり。
アズールが鬼のような形相でこちらを見張ったり。

こんな、酷すぎる。牢獄だ、まるで。
肺の酸素がなくなるまでため息を吐くと、こうなった原因に思いを馳せた。
全ては、そう。あの夜から始まったのだ。