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冷え切った教室に響いた、能天気な声。
驚いた三人は同時にその声の発生源、教室の入り口の方へ顔を向けた。
そこに浮いていたのは、人より長い尾を持つうつぼの人魚だった。

ソイツは垂れ目を細めながら微笑んで、「ね、シレーヌ」と私の体に尾を巻き付けた。
うお、捕食される…。尾をさりげなくひっぺがそうとするが、力負けしているのかその尾が離れることなかった。

「フロイド、リーチ…」

先生が彼を見てそう小さく呟いた。
あ、そうだ。こいつはこの学校随一のトラブルメーカー、フロイド・リーチだ。
なぜ私が認知されているのか分からないが。

「そいつがねえ、転んでほっぺぶつけてたよ。シレーヌは助けようとして手ぶつけてた」
「…本当ですか?」
「ちが、「だよねえ?」…はい」

忖度を見た。
ワントーン低い「だよね?」に、否定しようとした人魚はかわいそうに震えて押し黙ってしまった。
状況は完全に膠着状態に陥り、やがて先生もこれ以上の追求は無駄だと判断したのか、怪我をおった人魚を連れて教室を出て行った。

私も連れて行かれかけたが、慌てて断った。フロイド・リーチの意図を探りたかったのだ。

「歌わない、いじめられっぱのシレーヌ。初めまして」

フロイドは私の腰に巻きついた尾はそのままに、愉快そうにそう挨拶をした。
ばかにしてんのか?

「なんで、私を助けたの」
「わかんねえの?」

イエローダイヤモンドの彼の目が、私の濁った青目とぶつかる。
どうしても理由を見つけられない私に、フロイドは大袈裟にため息を吐き、また楽しそうに目を細めた。

「あんたが、楽しそうなやつだからだよ」
「ぐえっ」

尾で一気に私の腰を引き寄せたと思ったら、私の頬に氷のような手が添えられた。
触れるな、という意を込めてフロイドを睨みつけるが、彼は私の意思などどうでも良いらしい、そのまま私の輪郭を確かめるようにゆっくり撫でた。

「ね、友達になろっか」

は?

フロイドの突然の友達申請にフリーズしてしまった私は、悪くない。

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作者名:ほこり | 作成日時:2020年12月23日 2時

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