31話 ページ32
シ「危険な目に合わせたこと、ちゃんと謝りたい。」
本来なら、1番近くにいたのに何も出来なかった俺がするべきことを、シルクがやると言い出した。
ほかのメンバーも同じ気持ちだったらしく、みんなが無言で頷いている。
医者「……まもなく病室に移動しますので、もう少しお待ちください。」
シ「はい。」
それから数分後、酸素マスクや色んな管を付け、見るのも痛々しい真っ青な顔をしたAが運ばれた。
俺たちはみんなで移動したけど、喋る人がいないので部屋には脈を図る機械の電子音と、Aの微かな呼吸音しか聞こえない。
意識が戻る可能性はかなり高いが、いつ目覚めるかどうかは、本人の体力次第だそうだ。
昔バレー部に入っていたAだけど、最近じゃあまり体を動かしていないし、しばらく目を覚まさなくても不思議じゃない。
現在時刻は23:39。
ンダホは、奥さんに子だほの事で呼ばれ、申し訳ないといいながら先に帰った。
ダーマも、明日は朝イチから会議があるらしく、嫌そうにしていたけれど、タクシーを呼んで帰って行った。
ザカオはココ最近編集ばかりしていて寝不足なのか、病室の丸椅子に座ったまま眠ってしまった。
マサイとシルクはスタッフたちと今後について電話中。
俺はただ、Aの手を握ることしか出来なかった。
元々体温が低く、さらに末端冷え性のAは、冬はもちろん夏でも手はいつも冷たかった。
けれど、それは生きているって感じの冷たさだ。
今のAはただ何も感じない冷たさ。
血液が通っているのかすら微妙なくらい何も感じない。
一重に冷たいのではなく、熱も冷も感じない。
いつも眠る時は中学生かよってくらい子供みたいに幸せそうに眠るのに、今はただ目を閉じてるだけみたいだ。
酸素マスクがたまに白く曇る事だけでしか、生きていることを実感させてくれない。
ねぇA、ごめん。
痛いの嫌いなの知ってるし、怖いの嫌いなのも知ってる。
なのに全部体験させてる。
ごめん、ごめんね。
悔しさと悲しさからか分からないけど、目元が潤んで前が見えにくくなる。
泣きそうな俺に気がついたシルクが、気を使ってカーテンを閉めてくれた。
ねぇ、A？
なんでもお願い聞くからさ、目を開けてよ。
神様や仏様は、本当にいるのかもしれない。
そんなことを、そこそこ生きてきた人生で初めて思った。
ウ「…………ん」
モ「A？A……！？」
シ「意識戻った！？」
マ「ちょ、看護師さん呼んでくる！」
眠たそうなその目があまりにもいつも通りで、心の底から安心した。
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作者名：ますもも | 作成日時：2023年3月12日 23時
