25話 ページ26
モトキside
正直、嫌な予感はしてた。
ウノ…いや、Aは、視力はダメダメだけど、聴覚と嗅覚が実は結構優れてる。
小さい音でもすごい拾うし、柔軟剤変えたりシャンプー変えたり、普段付けないワックス付けると直ぐにバレる。
そんなAが異変を感じて夜道で後ろ振り返るなんてまずおかしいと思った。
野良猫とかかもって普通なら思うけど、俺たちのマンションの近くはかなり環境が整っていて、野良猫たちがひっそりクラスには不向きすぎる。
可能性はゼロじゃないけどかなり低いと分かってたから、まさかとは思ってたけどね。
あの男、明らかにAを見てた。
フィッシャーズっていう、テレビにも出させてもらったし、色んな賞を貰ったりしたおかげでそこそこ名前の売れたグループに所属してる唯一の女の子。
それだけの好条件なら、変な輩が本気で惚れてもおかしくは無いしむしろ今まで何も無かったのが不思議なくらい。
ぐるぐると考えながら頭を洗っていると、急にピリッとした痛みが頭に走った。
モ「いって…」
右手を見ると、爪が赤く血で滲んでいた。
おそらく髪を強い力で洗いすぎて切れたんだろう。
水をかけると少し染みるけど、そんなことどうでもいいくらい自分がキレてることに気が付く。
嫌なこと、大変なこと、辛いこと、Aは1人で背負ってしまいがちなのに、直前でしか気付いてあげられなかった。
それどころか、もう多分住所がバレてる。
最悪の場合ケガしたり病院行きになる。
不幸中の幸いだったのは、俺が隣にいたこと。
本当にあの男がリスナーだったなら、俺の家に入った時点で隣がAの家だって知ってるはず。
やっぱり今、隣だからって家に返すのはまずい。
リーダーの指示も俺の家での待機だったし、とりあえず対策はシルクたちに任せよう。
モ(指先震えてたな…)
ドアの前であの男が笑った時、Aは確かにビクついた。
見たこともない住人、怪しい格好、そして辻褄が合わない行動。
810号室の人は少し前に引っ越していて、8階の最奥は俺とAだけのはずなのに、俺たちの後ろを着いてきた。
もう黒と確定してもいいと思うけど、億が一違った場合揉めると困るのでまだ様子見。
とりあえず今は早いところ風呂から上がってAの様子を見ないと。
頭の痛みを無理やり無視して風呂の扉を開けた。
バスタオルを手に取ると同時に、インターホンが鳴った。
いや、え?
あ、あの、俺まだ裸なんだけど。
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作者名:ますもも | 作成日時:2023年3月12日 23時