お兄ちゃんと妹【白布賢二郎】 (ページ12)

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お兄ちゃんと最低限ページ12

　
　
　
　
妙に体が暖かくて

けど少し眠気のせいか重怠くて

違和感に耐えられず起き上がると

机に向かって「数Ⅰ」と書かれたテキストを広げて

黙々と勉強している兄がいた

思わず顔を顰めてしまうのはいつもの癖だ

ベッドのスプリングの音に気がついた兄は

こちらを見ることも無く

ただ冷たく発した

「起きたか」

「……いま何時？」

「10時。お前寝すぎ。母さんに迷惑かけんなよ」

「……ごめん」

そんなこと言うなら起こせばよかったのに

その言葉は飲み込んだ

ただ倒れ込むようにベッドに入ったはずなのに

まるで風邪引くなよと言いたげに

肩までしっかりかけられた布団を見ると

誰がかけてくれたかなんて

容易く想像がつく

もちろん長男の可能性も無い訳では無いが

あの人は

私に気をかけているように見えて

実際はそこまで関心は無いから有り得ない

弟の2人も

甘やかしてくれる私が好きなだけで

私そのものが好きなわけじゃない

その辺で寝ていようが構わず起こしては

遊んでくれと喚くはずだ

消去法で

目の前のこの人しかいないのだ

流石の私も

気遣ってくれた人に

文句言うほど腐っていない

ベッドから起き上がると同時に

兄も動かしていたペンを置く

「ねぇ、お母さんは？」

「父さんの会社まで迎えに行った。」

「え、なんで？」

「外見ろよ。大雨警報出てる」

「…ふーん」

服装を見るに

この人はもうお風呂は済ませたのだろう

テキストを閉じて椅子を戻し

ベッドへ向かってゆっくり歩いてくる

「キッチンにご飯、置いてあるから温めて食えってさ。」

「…うん」

「もう寝るから起こすなよ」

必要最低限の会話だけなのはいつもの事

なのにどうして

こんなに寂しく感じたんだろ

布団に潜り込んでしまったら

もう話しかけてくるなという意思表示

お腹も空いているのでリビングへ向かった

シンとしている廊下は少し不気味なもので

あまり怖いものが得意では無い私には喜ばしくない

電気をつけて足早に階段を降りた
　
　
　
　