お兄ちゃんと妹 3 【白布賢二郎】

お兄ちゃんとテスト ページ46

　
　
　
　
｢じゃあ今日はオーバーハンドパスのテストだ。コツはおでこの上で3角を作ること。誰か見本を……｣






まだ半袖を着るには肌寒いはずの




春の終わりかけの体育で




腕を丸出しにしながら生徒を見渡す




隣のクラスには女バレの女の子がいるし




きっとそっちに声をかけるだろうと思って




私は隣に座っていた友達と小さい声で雑談をした




けれど何年も先生をやっている人には




やはりバレているようで…






｢おー、お喋りとは随分余裕だなぁ白布ぅ｣




｢げ｣




｢お前たしか兄貴が男バレのスタメンだよなぁ？｣




｢い、いやいや…バレーやってるのはあくまでアイツであって私は全然…！｣




｢運動神経いいだろ〜？ほら、ちょっと前出てやってみろ｣




｢……さいっあく｣




｢聞こえてるぞ〜｣






渋々地面から立ち上がり




おしりについているであろう砂を叩きながら前に出る




ちらりと盗み見た隣のクラスの女バレの子は




右手の親指が包帯でぐるぐる巻きだったから




指名されなかった理由を察した




げっそりとした顔で先生の前に立つと




先生は片手で掴んでいたMikasaのボールを渡してきた




私は実はmolten派なのだけど




そんなことを考えながらボールを受け取った




懐かしいこの感じ




サーブ権を託された時の緊張感




長いラリーが続いた時の心地いい疲労




体は重たいのに頭はクリアで




絶対に点をそっちにはやるものかと粘る時の熱意




誰にどんなボールをどこに上げれば勝てそうなのか




どんなトスをスパイカーが望むのか




どんなトスなら相手が嫌がるのか




どんなトスなら…






｢(賢二郎が褒めてくれるのか……なんて、考えてたっけ)｣






先生が他の生徒にテストの内容を説明している中




私はただ中学の頃を思い出していた




数分後に始まった見本のテストでは




ただひたすらに真上にあげることだけを考えて




味方のこととか




相手のこととか




得点のこととか




試合のこととかは




頭から無理やり外した






｢…すごい、綺麗なトスだったよ。経験者だったのか？｣






終わったあとで先生が真面目な声で言った




なんて答えるべきなのか分からなくて




はいそうです、とか




いいえ違います、とか




何かしら言えばいいのに




私はただ小さく






｢……賢二郎に比べたら全然です｣






とだけ答えて友達の元へ戻った
　
　
　
　
　

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