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_______数日後。
Aの病室を訪ねると、
そこにあいつの姿は無かった。
その場合、決まってAは屋上にいる。
「...いた」
『..十四郎さん..!
どうしたんですか?
こんな面会ギリギリの時間に』
Aは、俺の姿を見て少し驚き、
そして、少し嬉しそうな顔をしたのが分かった。
「...どうしたって.....そりゃ....
アンタの顔が見たかったから....」
俺は、馬鹿正直なことを口走る。
『..くっ...ふふ..っ...』
すると、笑いを堪え切れなかったとでも言うように、
静かに笑い出すA。
「.....チっ」
俺は、Aに言い返す言葉も見つからず、
軽く舌打ちをして、
もう見慣れたフェンスの手すりに、視線を落とした。
『...違うんです十四郎さん、
私もね....あなたに会えなかった日は、
こうしていつも屋上に来て、空を見るんです』
「...は?」
急に何を言い出すのかと、
俺は、Aの横顔を見つめる。
『...この同じ空の下で、私も、
十四郎さんも、生きている....
そう思うだけで、明日も生きようって』
あ、検査の後じゃなくても屋上許可は取ってますよ。
なんて言いながら、柔らかく微笑むA。
『..ぉわ..っ...』
Aに、俺は無言のまま、
勢いよく横から抱きしめた。
「....A....アンタ、馬鹿だな」
Aの頭に、自分の顎を乗せて言う。
すると、自分の首に回っている俺の腕を、
ギュッと掴むA。
『...誰のせいでこんな馬鹿になったんでしょう』
Aは、俺の方を見上げるように振り向いた。
「....元々だろ」
振り向いたAの顎を、
片手で軽く持ち上げると、
そのまま唇と唇を重ねる。
Aは、抵抗しなかった。
分かっていた。
俺もAも、同じ想い。
だがそれは、言葉にしない。
できない。
そう思っているのも、また同じだ。
その後、何事もなかったかのように、
他愛のない会話をしながら、Aを病室まで送り届ける。
「明後日は非番だ、昼頃来る」
『..待ってます、お気を付けて』
こんなどうってことないやり取りが、
Aとの最後の会話になった。
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リヴ - ていさん» 私も銀魂の小説書いてます!ていさんほど上手くないですが、ぜひちらっと見ていただけたら嬉しいです!! (2021年1月5日 11時) (レス) id: 3a05cdac75 (このIDを非表示/違反報告)
てい(プロフ) - リヴさん» 勿体ない程のお褒めの言葉ありがとうございます(TT)完結まで暖かく見守ってくださると嬉しいです!! (2021年1月5日 11時) (レス) id: 51fbc336c0 (このIDを非表示/違反報告)
リヴ - 語彙力が素晴らしいです!ていさんの作品色々読ませていただいたんですが、どれも面白くて…!尊敬してます!更新頑張ってください! (2021年1月5日 10時) (レス) id: 3a05cdac75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てい | 作成日時:2020年12月20日 6時