タイオンケイ ページ16
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渋「…おい、」
「ん？なにすばる君」
文化祭の余韻もすっかり消えて、
黒髪への微妙な騒ぎも落ち着いてきた頃。
やっと授業が終わって、帰ろうとした放課後、
珍しくすばる君が声をかけてきた。
しかも、一人で。
渋「話ある」
「…え？」
渋「安心せぇ告白ちゃうから」
「助かるわその前置き」
ヘラヘラと誤魔化して笑うけど、
実は結構、心当たりあんねんな。
だって、すばる君は多分…
渋「…保健室、
今日はもう先生おらんから」
「…そこで話せ、と？」
渋「安心せぇ襲わんから」
「そこまで言うたら
逆にフリみたいになるからやめときや」
渋「嘘。誰もおらん所の方が話しやすい」
「はいはい」
…まぁ、いいか。
幸運か不運か、今日は特に予定が無い。
傾きかけている日差しを横目に、
二人で廊下を歩きだした。
.
ガラガラガラ…
こっそり持ち出した鍵で、
もう閉じられていた保健室のドアを
静かに開けるすばる君。
もちろん中には誰もおらんくて、
私も無言で室内に入る。
静まり返った校舎の隅の保健室で、
すばる君が背もたれのない丸い椅子に座り
カバンを床にドサッと置いた。
私も、大きなソファに腰掛ける。
「さすが、保健室行き慣れてるなぁ」
渋「まぁな。ここで何回サボったことか…」
「良い思い出みたいに語らんとって」
普段からしょっちゅう
この場所にお世話になってるであろうすばる君。
その辺に置かれた体温計とかを適当に漁りながら
ふと話を切り出した。
渋「…お前さ、」
「うん」
渋「…今、ヨコと、付き合ってる？」
「…」
渋「…違ったらごめん」
言うてる間もずっと
体温計の蓋をぱかぱか開け閉めして、
視線を落としたまま。
…やっぱり、こういうとこ、鋭いねんな。
「…何も違ってないよ、」
渋「…お前やっぱり、」
「多分、すばる君の考えてる通りやと思う」
渋「…」
私がそう答えれば、ようやく眼差しは私の方に。
その表情は、変わらないようで、微妙に複雑そうで。
渋「…文化祭の一日目の時、学校の前で見かけてん。
友達と一緒におったヨコを」
「一日目…？」
渋「多分制服着てたから、
その時は登校中やったと思う。
でも、一緒におった奴と
『今度行こう』って言うてたから…」
それで、最終日にすれ違った、と。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2020年2月7日 16時
