パシリ【桃也】 ページ10
『はあ……マジで自分で買いに来いよな……』
俺は先ほど誰かさんに頼まれ、コンビニにわざわざ歯ブラシと歯磨きを買いに越させられていた。
まあ、話すと長くなるのだが……
ぱっぱと仕事を終わらせ、俺は帰路についていた。
自宅のドアに鍵を差し込もうとすると、つい先日と同じように鍵が入らなかった。
鍵穴を見るとやはり穴は縦になっている。
また依月ちゃんかと思ったが、もしかしての可能性にかけてゆっくり静かにドアを開けた。
「あ、おかえり〜」
『お前かよ！』
朝も聞いたばかりの男の声を聞き、床に鍵を投げ捨ててしまった。何で帰ってねえんだよ。
静かに開けたつもりなのに気付くとは耳が良いなあ耳が！ 耳が遠くなっちまえ。
誰が楽しくて輩の声を疲れた時に聞かねばならんのだと、ぶつくさ思いながら靴を脱ぐ。
「あ、待って桃也靴脱がないで」
『はあ？』
既に脱いだ左足の靴に足を入れ直し、ぱたぱたと廊下を歩く海貴を待つ。
ひょこりと壁から顔を出し、飄々とした態度で言った。
あのさ、
歯ブラシ買ってきてくんない？
あと歯磨き粉。
今でも笑顔で言った彼奴の姿を思い出すと、買い物籠を床に叩きつけたくなる。
人に頼む態度がなってないんだよ最近の奴は。というか俺早生まれだから実質彼奴の方が年上だぞ。
断るのすら面倒だったので、玄関に立てかけたバイクジャケットを手に取り家から出た。
そしてバイクにかけたままのヘルメットをかぶり、コンビニまで飛ばしてきた。
近場のコンビニは毎度置いておいてくれない事を知っていたので、ちょっと遠くまで買いに来たという訳だ。
ほぼ仕事帰りなので、バイクジャケットにスーツというなんとも微妙な恰好だ。
こんな格好でコンビニ来る奴が居るか。皆フラットな服装だぞ。
数人並んだ列に混ざり、頭を掻く。今の内に赤マルの番号を確認しておこう。
じっとレジ後ろを見るが、それらしき箱は見つからなかった。まあ次コンビニに来た時に買えば十分だろう。
手持無沙汰になってしまったので、レジ前に並ぶ人達のファッションを確認する。
人を見ると流行が目に見えて分かるので人間観察はちょくちょくやっている。
最近はレディースの髪型でクラゲヘアが流行っているよな。
元々ウルフはそこそこ居たのだが、前よりも襟足だけ長い髪型の人が一気に増えた。
うんうんと考えていると、声をかけられた。
それはそれは、耳に馴染む声。まるで朝に聞き、一日中俺の脳内を反芻していた声のような。
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