不機嫌らしい【桃也】 ページ8
タンブラー片手になんとなく授業の様子を思い出す。別に普通だったと思うのだが……
顔に出ていたのなると、俺の表情筋を疑わねばならない。普段どれだけ表常筋留守にしてると思ってるんだ。こちとら小学生時代のあだ名お面だぞ。
中々にブラックな過去の記憶が蘇ってき、俺の黒い歴史が思い出すに堪えなかった。俺もちゃんと黒の歴史を通ってきた人間である。
生徒も疑心暗鬼になってきたのか顔を見合わせ、そうだったよねなどと小声で会話している。目の前に居るのだから小声で話す必要性はないのでは。
「えと、なんか途中で黄昏てたり、虚空を睨みつけたり……してました……かねえ……」
段々と尻すぼみになり、他の奴も空を見つめたり地面に目を落としたり。そんなに俺が怖いか。
『なるほどなあ。まあ、心当たりあるし……気を付けるよ。悪いな』
いえとんでもないですありがとうございました〜!!! とすたこらさっさというように教室から出ていく。
おつかれーと背中に声をかけるが、小走りで出て行ったので多分聞こえなかっただろう。
……これだけ警戒されていたということは……相当、機嫌悪かったんだな俺。猛省。
顔立ちもあんまり優しいという感じではないし、声もそこそこ低めなのでまあ、怖いっちゃ怖いだろう。すまん。
ただなあ……朝っぱらからあんな業務妨……失礼、賑やかしをされてしまうのは少し苛立たないか。俺は腹立つね。
朝くらいはもっと静かに過ごさせてくれって感じだ。朝なんて低血圧のオンパレードだ。
一応電話の後には美作先生は体調不良とのことで、俺がしっかり報告しておいた。
それにしても、体調は大丈夫なんだろうか。昼食もメロンパンの半分しか取っていなかったし、あの様子じゃ夜も食べたとは思えない。
肉を食えとでも言えば良かったと後悔する。せめて何かしら腹に入れていると良いのだが……
窓の外の空は、水色とも白色とも言えない曖昧な色だった。
春は天気が不安定だから、近々雨が降るかもしれない。天気予報を確認しておかないと。
あの人のカラーである空から目を逸らし、再びタンブラーを傾ける。爽やかな苦味が口に広がり、喉を潤す。
職員室に備えてあるインスタントに初めて手を出したが、案外美味しいらしい。また飲もう。
噛み殺し損ねた欠伸を漏らす。春の陽気は、ひんやりと冷えた空気でしかなかった。
あの人が居ない日は、少しばかり何かが足りないような気がした。
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