夢はいくらでも【桃也】 ページ44
温かい湯が俺の体を解していく。
毛布をかけた割には朝の暑さが少し厳しくなり始めていて、汗ぐんだ体が流されるのが気持ち良い。
あの後思わず座り込んだベッドにそのまま横になってしまって、気がついたら朝だった。
海貴は朝一番に自宅へ帰ったらしい。置き手紙によると「ちょっと仕事入った」とのことだ。社長も大変だとつくづく思う。
シャンプーを手で泡立てて頭を洗うと、微かに柑橘系のさっぱりとした香りがした。
夏場でも風呂で爽快な気持ちになるにはこのシャンプーがもってこいだ。
頭の泡を流しながら、いつか実家に顔を出そうと思案する。
このところ、依月ちゃんとは会っていても両親とは顔を合わせられていない。一番最後に家へ帰ったのは、もう一年以上前だったか。
今でも思い出せる実家の匂いが懐かしい。
ああ、本当にそろそろパートナーを連れていかなければ。
学生時代にそこそこ遊んでいたものだから、両親たちも心配しているだろう。
33にもなると、周りがどんどんと子供を産み始める。
高校は男子校だったからか、そこまで多くはないけれど。大学の友人や中学の友人、前職の時の仲間はどんどんと結婚していっている。
俺だけが祝議を持っての結婚式への参加をねだられるので、余程でなければ出席しないようにしている。そんなに俺は余裕がある訳ではない。
パートナーが出来たらどちらの家に住まうんだろうか。
相手は大体俺と同い年くらいだろうから、おそらく向こうの家があるだろう。
俺の家はそこまで広くはないから、多分向こうが大きければそっちに住まうんだろうなあ。そうなれば俺の家は貸家にして副収入でも得てやろう。教員でも確か問題ない副業だったはず。
ああ、そうだな。元々安定のためもあって教員になったから、向こうが稼ぐ能力さえあればスタイリストにまた戻りたい。
舞台に拘らず、もっと幅広いジャンルでのスタイリストとして活動すれば昔よりも安定するはずだ。有難いことに多少のコネはある。
出来るならもっと学んで海貴のように会社だって建てられたら理想的だ。
それをするためにはまた大学へ入るのが一番良いだろうか。でももう既に衣装スタイリストとして働いている時、同時に教育系の大学に通信で通っている。三回目となると、流石に厳しいかもしれない。
叶えるのは難しいだろうけれど、馬鹿な夢はいくらでも湧いて出てきた。
やはり、まだ俺は子供だった。
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