らしい【花霞】 ページ43
カーテン開けっぱなしで寝ていた窓から朝の光が差し込んでくる。
その光がだいぶ眩しくて、思わず目を覚ました。
背伸びをして、起きあがろうとすると歩叶先輩もいいタイミングで目を覚ましたようだった。
「…あれ？なんで俺は花霞と寝てんの…？」
昨夜の飲み過ぎが原因でかなり記憶が曖昧だった。
「なんでボクの家に来たのか」もわかっていないような素振りで話を進めるものだから、ボクが無理矢理連れてきたみたいになっていて、挙げ句の果てにそれを結論にしようとしていた。
『いや、歩叶先輩が勝手に上がり込んできたんですけど…。』
「え、？俺が？」
本当に何も覚えていないものなのだろうか？少し病気を疑いたくもなるが、記憶障害系は本当に笑えないので勘弁してほしい。
一個上の先輩が重い病気とか、絶対に考えたくないし。
『覚えられてないって、なんか嫌ですね。昨日はボクがベットまで運んであげたのに』
「うわ…マジか。重かったでしょ？ごめんね。お詫びにもなんないけど、なんか作るよ。キッチン借りるね」
思い出してはいないようだったけど、記憶にないことでも謝れるような人なんだなぁと思った。
なんとなくこの人は「は？そんなん知らないし」とかいいそうな部類の人だと思ってた。
やっぱり第一印象だけで人を判断するのは良くないな。それが全てじゃないし、もっといろんなところを見ていかないと…。
一人暮らしをするにあたって一通り揃えたいキッチン周り
ボクが住んでいるだけだったら一生使われなかったであろう道具たちが取り出されていき、歩叶先輩は料理を進めていく。
一定の間隔でまな板と包丁がぶつかる心地良い音がして、まるで同居人が出来たかのような気持ちを味わっていた。
『歩叶先輩、ボクには恋愛なんてハードルが高いです。』
「…そっか。少なくとも、恋することが正しさではないから、いいんじゃないかな？」
珍しく他人を気遣うような言葉の後に、「でも…」と言葉はまだ続いていた。
「花霞には、面倒見が良い人が必要だと思うけどな〜」
家事はまぁまぁ出来るつもりであった。
昔、ハウスキーパーのような仕事をしたことがある。評判も…悪くはなかったし。
そうするとやっぱり、ボクのことを純粋に心配してくれているのだろう。
有難く思うと同時に、少しお節介さも感じられるような優しさ。
これが歩叶先輩…いや、これでこそ歩叶先輩だなと思った。
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