夕食レポート【桃也】 ページ38
座っている俺の元へ、ラップされた耐熱皿が運ばれてきた。
キッチンを見ると鍋に火をかけていたので、汁物も作ってくれたんだろう。海貴様様だ。
コトリと俺の前に皿を置いたので、水滴で曇ったラップを外した。
『おー、すげ。ちゃんとした麻婆豆腐だ』
「いやちゃんとって何！？ 俺最近料理上手くなったからな！」
素直に思った感想を溢すと、脇腹を突かれた。地味に痛いのでやめてほしい。
すっかりメンヘラモードは解除されたようだ。いつものいじられキャラの姿に戻っていたのでホッと肩を撫で下ろした。
学生時代はメンヘラモード発動した海貴を宥めるために、クラス総出でやっていたりしたっけ。
クラス全員、すごく仲の良い学校だったと思う。言い換えると皆自由な動物園だった。
置かれた皿からはスパイシーだが甘さのあるような香りが漂ってきていた。
その香りが俺の空腹を増長させる。
「冷やご飯あっためる？」
『いや、こっちが温かいから別に大丈夫』
タッパーに詰められていた冷やご飯に麻婆豆腐をぶっかける。
やはり麻婆豆腐はこうでなくては。
『いただきます』
「召し上がれ〜」
パタパタとリビングの方へ海貴は移動して行った。
俺はスプーンを手に取り、麻婆丼を一掬いした。
口元へ近づけると、よりその食欲をそそる香りが強くなり、それに齧り付く。
俺が普段作るような濃い味付けではないが、海貴らしい優しさのある味が口に広がった。
そこに入れられた山椒がピリッとアクセントを加えられていた。
一口ずつそれを味わっていると、汁椀を持って海貴が戻ってきた。
目の前に汁椀を置かれ、麻婆丼を口に頬張りながら軽く頭を下げた。
汁椀の中身は麻婆丼によく合いそうな中華スープだった。溶かれた卵がふわふわとスープを漂い、緑のネギが彩りを与えている。
一度スプーンを置いて、スープを口にする。
鶏ガラの味と黒胡椒の酸味が程よく混じり合っていた。体の芯から温まるような味だ。
追加でコンビニで買ったらしい温野菜を出された。
ここまで手料理だったのに突然コンビニ飯なのは海貴っぽい。むしろちゃんと料理をする方が珍しいような気がしていた。
「社長だから自分で作らなくてもいいの！」とか言っていそうなのに。
数分して、全ての料理を平らげた。
『ご馳走様でした』
「お粗末様でした〜！」
俺が両手を合わせると、ニコニコとした表情でこちらを見てきた。気分が良さそうだ。
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