同族嫌悪【花霞】 ページ35
エレベーターに乗る前に、ここら辺ではあんまり見ないような男の人がいた。
ここのマンションに住んでる人ではないけれど、よく見る人だったし、その人の行く当ては知っていた。
学生時代から開いていたピアスの数はいつの間にか増えている。
実際似合っているしかっこいいからいいとは思っているけど、ボクからしたらあのピアスの数は痛々しく見えた。
『歩叶先輩、』
何か言わないと、と思って名前を呼んだものの言葉に詰まる。
この人と話すのは少し苦手だった。いつも笑ってるし、かっこいいし、いつだって憧れだったけど、ボクが見てる部分は全部作り物な気がして、接し方がよくわからなかった。
でも、それはボクも同じだった。辛かったところは見えないように、悟られないように取り繕う。
俗に言う、同族嫌悪なのかもしれない。
「あ、今日泊めてくれない?」
『…またですか?』
歩叶先輩が自分の家に帰ることはほぼない。
本人曰く、人肌恋しくなるタイプらしく、誰かと一緒じゃないと寝れないとのこと。
だから寮制の青蘭に来て、子役だったからそのままアイドルになった、と言う話をしていた。
今は…たぶん、バーテンダーだった気がする。この前はスポーツインストラクターだったっけ?
でもその前は一生懸命勉強して美容師免許取ったって言ってたな。
「今日はいい感じの人来なかったんだよね〜。」
『普通に家に帰れば良いじゃないですか。』
「別に良いじゃん、花霞に手出すほど飢えてないし。」
逆に手出されたら思いっきり顔面グーでいってやろう。
まぁ、1日くらいなら良いか。ベットないな…ボクがソファーで寝ればいいか。
ご飯作ってないし、人の家でも勝手に飲み出すから…やっぱ極力泊めたくないな
『…なんでボクの家なんですか?』
「え〜だって光希先輩はめんどいし、湊は泊めてくれなさそうじゃん?」
『夢羽先輩が居るじゃないですか、あの人なら何も言わずに泊めてくれそうですけど…。』
言い終わる頃に、言わなきゃよかったと思った。
夢羽先輩の名前を出した瞬間、歩叶先輩が目を逸らした。さっきまで笑っていた顔も、少し俯いて目を合わせてくれなくなった。
正直、この人が誰かに一途になるイメージがあまりにも湧かなかった。
誠実という言葉には縁遠い人間だと思ってたし、今まであんなに親友みたいな距離だったし。
『…わかりましたよ。』
「やっぱ花霞は断らないよね〜」
歩叶先輩の声は、いつもの声に戻ってはいなかった。
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