週末の夜【桃也】 ページ34
温まったエンジンからわずかな黒煙が舞い上がり、道路を駆け抜けていく。
マフラーも何もつけていない晒された首元は、吹き荒れる風のせいで酷く冷える。
極力早く帰ろうと思ったのだが、ことごとく信号に引っかかって止まってしまう。歩行者が居ないんだから夜中の信号くらい押しボタン式にしてくれないだろうか。
左足を地面につきながら、中々変わらない信号を見ていた。
やっとこさ変わった信号の下を通り抜け、自宅のマンションが司会の端に見える。
視界に入った途端、家に帰るのが億劫に感じ始める。
……いつもなら言い訳をすれば彼から逃れられるが、今日ばかりはそういかない気がする。
何たって週末の夜。これが1番ヘラりやすい時間なのだ(海貴談なので俺は詳しく知らない)。
とりあえず週末の夜で今までヘラられた経験をあげていこう。
まずは一つ目。土曜に出かけようという誘いを既読無視していた時。あまりに通知がうるさかったので「沈黙は肯定」スタンスを貫いてちゃんと出かけるのに付き合おうとは思っていた。だが、そんなことが相手に伝わる訳もなく、海貴には電話でキレられた。しかも一生落ち着かないのであれは大変だった。世の中の主婦ってこんなに大変なんだなあとも思った。
二つ目。海貴と飲みに来ていて偶々仕事の知り合いと会った時。俺は気づかなかったフリを貫こうと思ったのだが、相手から話しかけられて少し海貴を置いて話してしまった。会話が上手い相手だったので、思ったよりも話が盛り上がり、デザイナー時代でもあったため仕事にまで漕ぎ着けることができた。まあ、後はお察しの通りである。
思い出している内に着いたマンションの敷地内にスピードを緩めて入っていく。
愛車を定位置の所に駐車する。
最近になって思ったが、もしかしなくても愛車はただの金泥棒になってしまっているかもしれない。
此奴を持っているだけで税金は掛かるし駐車場代も掛かる。メンテだってしなければならない。
だが、俺は知っての通り酒好きだ。
そんな俺でも無闇に酒を飲んだ次の日の朝にバイクで職場には行けない。
あれ。結構マイナス要素しかないな。
……ま、愛車はあるだけで十分なのだ。うん。乗れなくとも、な。
エレベーターの上を指す矢印のボタンを押す。
丁度一階にエレベーターがあったお陰ですぐに乗り込むことができ、俺は自分の回数のボタンを押した。
ああ、今からでもホテルに泊まりたい。
家に入る憂鬱に、俺は頭を悩ませるばかりだった。
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