哀れみ【花霞】 ページ31
ドアに手をかけると後ろの方で「ばいば〜い!」と元気そうな声が聞こえる。
いつもなら平和を感じられるのだが、今日に至っては申し訳ないけど耳障りで仕方がなかった。
疲れてる時に大声で話さないでほしい。ついでに元気そうな声もやめてほしい。
光希先輩の声はいい意味でも悪い意味でもいつも変わらなかった。
それで救われる時もあれば、もちろん怒りが込み上げてくる時もある。
嫌ではあるんだけど、憎みきれないところが少し苦手だった。
落知先生のためにドアを開けていた時に、横目で光希先輩を見た。笑ってた。
嬉しそうで、楽しそう。一切の曇りがない目でボクたちを見つめ、手を振っていた。
正直怖かった。言葉では表せないけれど、不気味だった。
落知先生が通って、少しだけドアを押した。最後まで丁寧に閉めたわけではない。そこまでの余裕はなかった。
『お疲れ様です落知先生。…そう言えば、メールは返さなくていいんですか?ボクの知ってる限り、少なくとも3回くらいなってましたけど…。』
お疲れ様とは言いたかったけれど、それ以上話すこともなく、少々言葉に詰まってしまった。
とりあえず聞こえてきた音の話をしてみた。なんとなく妹さんかな〜と思っている。すごい仲良さそうだったし、こんな時間まで兄が帰ってこなかったら普通に心配すると思うし…。
「あー、大丈夫…じゃないですね。」
『あはは、そりゃあこんな時間まで出歩いてたら心配しますよ〜。妹さんですか?優しいですね〜。』
「…同級生です。」
『ふぇ?』
考えていた答えの斜め上を行く回答で、思わず拍子抜けした声が出た。
同級生?一緒に住んでるのかな?今流行りのルームシェアってやつ?でも、なんとなく落知先生が誰かと一緒に住んでるイメージがないんだよな〜。
『そうなんですね〜。何か約束があったりしましたか?』
「約束というか…頼まれ事はしてました」
『あ…なんか申し訳ないです。』
たぶん、光希先輩コンビニのレジ袋持ってたからコンビニで鉢合わせたとかなんだろうな。
それで運悪く光希先輩に見つかって…あ〜、可哀想だな。
哀れみを込めて謝罪する。どれだけ言っても許されないだろうけど。
『じゃあおやすみなさい、明日は休みですから、ゆっくり過ごしてくださいね。』
"自然な笑顔"を心がけてみる。でも、まだそれはボクには早いような気がした。
やっぱり、クセは簡単には抜けてくれない。
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